時の人

<インタビュー・時の人>東芝 ビジュアルプロダクツ社 映像第一事業部 日本部 部長 岡田淳

2010/12/16 18:44

週刊BCN 2010年12月13日vol.1362掲載

 2011年7月に迫る地上デジタル放送への完全移行。エコポイントを追い風に、液晶テレビは旺盛な需要が続いている。BCNランキングでは、販売台数が、10月に前年比3.2倍、11月は5.2倍を記録した。エコポイント終了予定の11年3月、さらに7月の完全移行まで、国内テレビ需要はどう動いていくのか、そして8月以降の“ポスト地デジ”需要をどのように喚起するのか。岡田淳・東芝ビジュアルプロダクツ社映像第一事業部日本部部長に聞いた。(取材・文/田沢理恵)

液晶テレビは若者に潜在需要
ポスト地デジに向け新視聴スタイルを提案

Q. 今年の薄型テレビ市場の伸びは驚異的だ。東芝の状況から聞きたい。

A.
 液晶テレビは、10月は前年同週比300%を超え、11月は500%を超えた。生産は相当前倒しして、工場はフル稼働だが、それでも追いつかない。11月の都内の家電量販店は、土・日では2~3時間待ちの状況で、平日でも混雑している。この光景だけでも需要のすごさがわかる。


Q. 需要の内訳は……。

A.
 中・小型テレビの販売が拡大している。家庭で2~3台目を購入する時期に入っているからだが、実は同時に大型も売れている。つまり、リビングの32型を別の部屋に移動して、リビング用に大型テレビを買うという“置き替え現象”が起きているのだ。当社の調べでは、二人以上の世帯の薄型テレビ保有率は70~80%。ファミリー層が中心だ。一方、独身世帯の薄型テレビ保有率はまだ30%程度。この数字からは、若者の消費行動の傾向として、テレビの優先順位が低いことがわかる。こうした買い替えを後回しにしてきた層の潜在需要は、まだまだある。

Q. 彼らが動き出すタイミングはいつだろうか。

A.
 地デジ移行前ぎりぎり、つまり来年6~7月に爆発的な需要があるとみている。エコポイントが終わっても需要は続く。世の中にある1億2000万台のテレビが、そんなに簡単に買い替えられるはずはない。地デジに移行しても、まだ買い替えていないという人は残っているだろう。

Q. 地デジ移行後に、需要を喚起するポイントは何か。

A.
 フラッグシップである「CELLレグザ」の機能の一部を「レグザ」にも搭載することを検討している。とくに最大8チャンネルを録画する機能は、テレビの新しい視聴スタイルを提案するもの。これからのテレビは、視聴するだけでなく、使い方を広げ、利便性を高めていくことが必要だ。話題のシーンや名シーンなど、「あのシーンが見たい」と思ったときに、専用サーバーから情報が得られる「レグザ Apps コネクト」も、テレビの使い方を広げる機能だ。また、設置方法の選択肢での訴求も必要だ。壁に取り付けたいというニーズはあるが、強度などの問題で実現できないケースが多い。壁に寄せて設置できるスリムスタンドを訴求するなど、「テレビのある生活」を提案する取り組みを強化していく。

Q. 3Dテレビはどうアピールしていくのか。

A.
 3Dは、テレビの機能の一つ。2Dはもちろんのこと、3D“も”見られるというかたちでアピールする。3Dは、映像が飛び出してくるイメージが強いが、実はそのよさは奥行き感にある。これを訴求するために、11月25日から、初めて「CELL レグザ」のテレビCMを開始した。今回は、福山雅治さんの楽曲をあえて使わず、宇宙をテーマにした空間で、3Dの奥行き感と臨場感を伝えている。

・Turning Point

 テレビに携わるまで、長年、録画機器を手がけてきた。量販店への営業を担当していたときには、勉強会を開催するために、10kgという重いビデオデッキを担いで電車に乗り、販売店をはしごした。2001年12月、他社に先駆けてHDD搭載のDVDビデオレコーダーを発売したときも、現場にいた。当時は、ビデオテープに録画していた時代。「録り貯める」という新たな録画スタイルの利便性を伝えるために、HDDに見立てた箱を用意して説明するなど、理解を得るまで苦労したそうだ。しかし「自分が自信をもって売る商品を理解してもらうために知恵を絞るのが営業の醍醐味。商品を世に広めることが営業の役目」と、現場を離れた今も、岡田部長は最前線の気持ちを忘れない。
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