時の人

<インタビュー・時の人>ソニーマーケティング コンスーマーAVマーケティング部門 パーソナルAVマーケティング部 統括部長 中牟田寿嗣

2010/12/02 18:44

週刊BCN 2010年11月29日vol.1360掲載

 1979年、「外出先で音楽を楽しむ」というライフスタイルをウォークマンで生み出したソニー。記録媒体は変わっても、長年、国内の携帯オーディオ市場をけん引してきた。しかし、その地位は01年のiPodの登場で揺らぎ、総じてアップルの後塵を拝してきた。そして10年11月第2週(11月8日~14日)、ウォークマンは「BCNランキング」メーカー別販売台数シェアで、8月最終週(8月30日~9月5日)以来、再び1位を獲得。存在感を増しつつある。(取材・文/井上真希子)

ウォークマンは徹底して10代に訴求
若者の「My First SONY」を目指す

Q. ソニーは8月、「BCNランキング」のメーカー別販売台数でシェア47.8%。競合のアップル44.0%を抜いて首位を獲得した。BCNが調査を開始した2001年11月以来の快挙だった。

A.
 「よい音楽体験を若者に届けたい」という当社の取り組みが、販売店やユーザーに浸透してきたからだと思っている。例えば、数年前までは、携帯オーディオ売り場はアップルのiPodが目立っていたが、今ではウォークマンの売り場もiPodに近い規模になっている。販売店の皆さまにウォークマンの価値を理解していただき、ユーザーの認知度が高まってきた。今後はアップルと肩を並べられるまでシェアを伸ばし、2社が同じように新製品を揃えるタイミングで販売台数シェア1位を獲得したい。


Q. ウォークマンは10代をターゲットに据えている。この戦略の狙いはどこにあるのか。

A.
 31年前、当社はウォークマンを世に送り出した。しかし、時間の経過とともに当時の若者は大人になり、ウォークマンを知らない若い人が増えてきた。この層を新規ユーザーとして取り込みたいと考えた。08年春に訴求方法を検討し、音楽を通じて体感できるユーザー参加型のプロモーション「Play You」を秋に開始。アーティストのYUIさんをはじめ、10代に身近な人物を起用してアプローチしている。

Q. 新製品として、スピーカー付きを2シリーズ投入した。周辺機器に力を入れている印象を受ける。

A.
 中学生や高校生はおこづかいで携帯オーディオを買うので、本体に保存した音楽を再生するオーディオ機器まではなかなか手が回らないのが実情だ。これを解決するために、今回もスピーカー付きモデルを投入した。また、コンポやスピーカーなどの別売の周辺機器については、液晶テレビやデジタルカメラなど、多彩なソニー製品同士をつないでいくことで、快適な視聴環境をつくっていこうという狙いがある。ウォークマンもその一つだ。複数の機器が将来、ユーザーの自宅の中でつながるようなAV環境をつくりたい。

Q. ソニーはウォークマンで何を目指していくのか。

A.
 10代の若者に訴求する方針はこれからも貫いていく。子どもたちの「My First DMP(Digital Media Player:携帯オーディオ)」がウォークマンであってほしいと願っている。また、少し大げさにいえば、ウォークマンが自分のお金で買う「My First SONY」になってほしい。

Q. まずはウォークマンから、ソニー製品のよさを知ってもらいたい、と──。

A.
 個人的にはそう思っている。「15歳のゲート」というものがあって、この時期に最初に手にしたデジタル製品は、後々の人生で思い入れが強くなるからだ。

・Turning Point

 1997年、国内市場で個人向けPC「VAIO」の立ち上げに関わったことは、ユーザーとの関係を再構築する転機となった。インターネットが普及する以前は、メーカーが製品のよさを一方的にユーザーに伝える、という方法しかなかった。しかし、PC経由でユーザーも情報を発信できるようになり、製品に対してユーザーが何を感じているのか、メーカーが簡単に知ることができるようになった。こうした時代に製品を世に送り出すには、ユーザーが求めているものを徹底的に追求する必要があることを「VAIO」を通じて学んだ。この視点は、現在の仕事にも生きている。
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