デジタルトレンド“今読み先読み”

デジタルフォトフレームが迎える新局面 “自分用” は付加価値がカギに

2010/12/02 16:51

週刊BCN 2010年11月29日vol.1360掲載

 クリスマスや母の日などのギフト商品として、人気を集めるデジタルフォトフレーム(DPF)。家電量販店の店頭では、この1~2年ですっかり定着した商品となった。台数規模は、2008年春のソニーの参入を機に急成長。販売台数指数でみると、09年10月には08年10月の2.7倍に伸び、12月には4.7倍を記録している。さらに2010年5月には、母の日需要が後押しして、年末とほぼ同じ規模を確保。ただし、今年10月は前年並みだ。売り場の現状と各社の動きから、今後の成長のカギを探った。


利用シーンの提案フェーズへ

 デジタルフォトフレーム(DPF)は、紙焼き写真を飾るようなシンプルな使い方と、デジタルならではの特徴を生かして複数枚の写真を入れたり、スライドショーが楽しめたりする点が少しずつ一般層に受け入れられ、ギフトを中心に人気を得てきた。「昨年は、売り場でデジタルフォトフレームとは何か、ということから説明することが多かった。今年は、お客様が特定の製品名を挙げて、『取り扱っているか』と聞かれる。デジタル製品にそれほど詳しくない一般ユーザーの間でも、認知度はかなり高い」(ビックカメラ有楽町店本館B2階DPE写真工房の澁谷一行主任)というのが、現在の状況だ。市場のけん引役となったソニーも「S-Frame発売から約2年半で、DPFは誰もが知っている製品になった」(森祐樹・ソニーマーケティング・パーソナルイメージングMK課・マーケティングマネジャー)とみる。


ビックカメラ有楽町店本館のデジタルフォトフレーム売り場では、ソニーや富士フイルムなどの大手メーカー製品が人気だ。
今年はパナソニックが参入し、パイオニアも攻勢をかける

 しかし、さらに成長するためには、ギフトだけでなく、新たな需要を喚起していく必要がある。森マネジャーは、「『自分使い』需要を活性化することで市場をさらに拡大していく」と言い切る。実際に、店頭でも「昨年に比べると自分用に買う人が増えている」(ビックカメラの澁谷主任)というのだ。ソニーは、今年の新製品で「自分使い」を狙った機種を投入。売れ筋の7型よりも大きい10.2型で、実勢価格4万円前後の「XRシリーズ」をラインアップした。高画質化に加え、動画/音楽再生機能を拡充した。

 「デジカメでの動画撮影が当たり前になってきたことで、DPFで動画を見たいというニーズが高まってきた」(森マネジャー)ということが背景にある。森マネジャーは、「この年末は、ギフトとしての認知度拡大に力を入れる段階から、何に使うのかを訴求する段階に入る」と語る。

攻勢をかけるパイオニアとパナソニック

 富士フイルムは11月20日発売の新製品で、ハイビジョン動画再生に対応する機種を投入。今年1月に参入したパイオニアも、「今後はギフトに加え、自分用に購入する人が増えていく」(パイオニアマーケティング・マーケティング部企画課・梶田孝昭担当課長)とみる。同社は、写真や動画の再生にあわせて、波の音などのヒーリングサウンドの再生を提案。従来モデルでは5曲をプリインストールしていたが、新製品では10曲にした。また、対応するファイル形式にWMAを追加し、携帯電話で音楽を聴くユーザーにも訴求する。専用展示台で特徴を分かりやすく示すとともに、露出度を高めて販売拡大を狙う。「販売台数で現在の2倍以上を確保する」(梶田課長)と、鼻息が荒い。


 そして、この年末商戦でパナソニックが加わったことも、今後の市場勢力を占ううえでは大きな意味をもつ。同社は今回、カラーバリエーションを含めて計3機種を展開。先行するソニーや富士フイルムに比べれば、ラインアップはまだまだ不足しているが、iPhone/iPodに対応するなどの付加価値をつけた。「エコナビや音楽再生、iPhone連携など、オリジナリティのある機能を搭載した付加価値モデルには、まだまだ伸びしろがある。音楽再生などの新しい提案で市場で一定の地位を確立したい。パナソニックだからできる提案で、まずはシェア10%を目指す」(パナソニック・デジタルAVCマーケティング本部担当者)と自信満々だ。

 DPFという製品は、「あえて先進機能を入れずに、デジカメで撮影した画像を表示して楽しめる機能に絞ったことで、一般ユーザーに受け入れられた」(ソニーの森マネジャー)という要素がある。しかし、各社が乗り出した“自分用”の提案は、多様化するニーズに合わせて、各社の特徴が鮮明になっていくことを意味する。ビックカメラの澁谷主任は、「iPhone/iPodに対応したパナソニックの動きに注目している。今後は他社からも、同様の製品が出てくるだろう」とみる。また、時代がWi-Fiやクラウドに向かっているなかで、これらへの対応もカギを握る。デジタルでありながらシンプルなDPFに、消費者が求めている付加価値とは何か――。それによって勢力図が塗り替わる可能性を秘める市場に向け、各社は虎視眈々と次期製品投入のタイミングを探っている。 (田沢理恵)
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