デジタルトレンド“今読み先読み”
横並びのコンパクトデジカメ市場 「写真を楽しむ」機能で復活へ
2010/11/18 16:51
週刊BCN 2010年11月15日vol.1358掲載
ミラーレス一眼の登場 基本機能への回帰に支持
1995年、カシオ計算機が世界初の液晶画面付きデジタルカメラ「QV-10」を発売してから、今年で15年。この間、コンパクトデジタルカメラは、めざましい進化を遂げてきた。今では、手ブレ補正や顔認識、高倍率ズーム、オートシーン判別などの機能は当たり前。すでに「写真を簡単に美しく撮るというカメラの基本機能の部分では、明確な差異化は難しい」(オリンパスイメージングの川俣尚彦取締役兼事業統括本部長)という、いわば各社横並びの状況だ。高機能化が進む一方で、ここ数年、平均単価は急速に下落している。各社の新製品が登場する9月の税別平均単価は、2008年が2万4732円、09年が2万3766円、10年は1万8408円と、今年は遂に2万円を切った。この状況に頭を悩ませているのは、メーカーだけではない。
ビックカメラ新宿西口店の現在のコンパクトデジカメの売れ筋は、2万5000円程度の製品。売れ筋製品の価格は年々下がっていて、「昨年と約1万円の価格差がある」(カメラコーナーの有場慎也主任)という。ユーザーと直に接してきた販売店は、コンパクトデジカメに対するユーザーニーズの変化を肌で感じている。これまでユーザー層が違うとされてきたデジタル一眼には、ミラーレスという新たなジャンルが登場。ボディは小さく軽くなり、操作も簡単になった。さらに、価格はレンズキットで8万円前後とお手頃。これでデジタル一眼レフと遜色ない写真が撮影できるとなれば、コンパクトデジカメの写真に物足りなさを感じているユーザーは、デジタル一眼レフへと流れる。勢い、コンパクトデジカメはサブ機という扱いになり、「『簡単な操作で手軽にスナップが撮影できればいい』というお客様が増えている」(有場主任)という。旧製品のなかでも基本機能がしっかりしたモデルや、低価格の最新モデルの人気が高く、これが平均単価の下落につながっている。
一方で、携帯電話のカメラの高画素化が進み、オートフォーカスや手ブレ補正、顔認識などの機能を備えるようになった。もはやコンパクトデジカメ並みで、ちょっとしたスナップなら、携帯電話でも十分きれいに撮影できる。
充実の基本機能に 「写真を楽しむ」機能をプラス
では、コンパクトデジカメは、今後どの方向に進化していくのか。そして、メーカーと販売店は、どこで利益を確保していけばいいのか。ビックカメラ新宿西口店の有場主任は、「携帯電話のカメラにはない『写真を楽しむ』機能を付加した製品であれば、ユーザーはある程度メリットを感じるようだ」と語る。具体的には、写真の色合いや明るさ、コントラストを調整して、個性的な作品に仕上げることができるオリンパスの「マジックフィルター」機能などが挙げられる。「写真を楽しむ」機能に、今最も注目しているのは、カシオ計算機だろう。同社は10月、HDR(ハイダイナミックレンジ)技術を生かし、カメラが被写体を解析して局所的にコントラストや彩度の強弱をコントロールすることで、これまで画像加工ソフトを使わなければできなかった芸術的な写真が撮影できる「HIGH SPEED EXILIM EX-ZR10」を発表した。
カシオ計算機の重岡正之・営業本部戦略統轄部QV戦略部長は、「平均単価が下がってきている市場でも、われわれは基本機能を備えた値頃感のあるモデルはきちんと用意しなければならない。しかし、それだけでは足りない」と語る。基本機能に「写真を楽しむ」というスパイスを加え、ユーザーが写真を撮ること、作品を見ることに喜びを感じられる製品を市場に投入していくこと――こうした施策こそが、コンパクトデジカメの単価を維持し、ひいては買い替え需要だけでなく新規ユーザーを生み出しながら、メーカーと販売店に適正な利益をもたらすだろう。(武井美野里)
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