時の人
<インタビュー・時の人>ASUSTeK Computer 会長 ジョニー・シー
2010/11/11 18:44
週刊BCN 2010年11月08日vol.1357掲載
専門性と高い技術力で付加価値創造
「新しいデジタルライフ」のチャンスをつかむ
Q. これまで日本市場に向けては、ネットブックなどの製品を単発で発表することが多かった。今回、一挙に9製品を投入した意図は?A. IDCの2010年第3四半期の調査結果では、当社は世界のコンシューマ向け、法人向けを合わせたPC全体の市場でシェア5位と、東芝より高いシェアをもっている。中国では2位、欧州やアジア、中近東でも3位以内に入っている。私は、PCにすぐれた付加価値をどんどん盛り込んでいきたいと考えている。他社と比較して、革新的な製品で、世界市場で今以上の競争力をもつ。その意味で、日本は非常に重要な市場だ。今回、新製品を一挙に投入することで、日本市場を盛り上げていきたい。
Q. ASUSが考えるPCの付加価値とは?
A. 当社の根本は技術力にある。今、ハードとソフト両面から、人の五感を満足させる革新的なデザインを社員全員で考えている。そうして生まれたものの一つが、今回発表したデンマークの高級オーディオブランド「Bang & Olufsen(バング & オルフセン)」のプロダクトデザイナー、デビッド・ルイス氏がデザインを手がけ、当社のオーディオ技術を結集して製品化した「NX90Jq」だ。当社には、世界でトップ3に入るであろう“いい耳”をもっている「ゴールデンイヤーチーム」があり、彼らがデザイナーと連携して「NX90Jq」をつくった。このように、私は何らかの専門能力や技術をもっている社員を大事にしたい。彼らの能力・技術を取り入れ、蓄積していくことで、製品の付加価値を創造する。当社は幅広いアイデアをもっている。それを、技術力をもってできる限り実現していく。
Q. 10月14日の発表会では、「時代は個人からパーソナルクラウドコンピューティングへ」と何度も口にされていた。その意図するところを教えてほしい。
A. 「個人からパーソナルクラウドコンピューティング」を漢字にすると、中国では「雲(インターネット)」と「端(人)」。雲の中には、映像や音楽など、たくさんのコンテンツや情報がある。これからは、大きな雲や小さな雲がどんどん増えていく。そして、人が雲と通じるために、スレートやスマートフォン、テレビなど、たくさんのデバイスが登場する。もっと先の未来では、モジュールセンサが直接体内に埋め込まれるかもしれない。パーソナルクラウドコンピューティングが進めば、リアルタイム、リアルプレイスで、自分が今どこにいるのか、周囲に何があるのかを瞬時にキャッチできるようになる。これは、新しいかたちのデジタルライフだ。人の生活は、より豊かになるだろう。今の時代は、当社にマッチしている。チャンスはたくさんある。
ジョニー・シー会長は、21年前、4人のエンジニアとともにASUSTeK Computerを設立した。5人全員が、PCのエンスージアスト。設立当時、カキ氷屋に集まっては、夢を語り合った。その夢とは、小さくて美しい会社をつくること。ビジネスのことは一切考えず、「ただいいものをつくりたい。自分たちでマザーボードを設計したい」という思いだけだったという。夢に向かって進むうち、会社はいつの間にか大きくなった。ジョニー・シー会長は「小さくて美しい会社はもう実現した。その後はわからない」と冗談っぽく笑う。「ただいいものつくりたい」という当時の思いは、今のASUSにも脈々と息づいている。
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