デジタルトレンド“今読み先読み”
<NAS(ネットワーク対応HDD>広がるNAS市場 接続機器の多様化で拡大に期待
2010/11/11 16:51
週刊BCN 2010年11月08日vol.1357掲載
外からNASにアクセス
iPhoneアプリを無償提供
「BCNランキング」でNASのメーカーシェアトップを走るバッファローは、2010年9月、スマートフォンやスレートでNASに保存したデータを共有するアプリケーション、「WebAccess i」(iPhone/iPod touch用)と「WebAccess i HD」(iPad用)の無償提供を開始した。外出先から自宅のNASにアクセスして、写真や動画ファイルを利用できる環境ができるわけだ。 反響は大きかった。バッファローの松崎真也・事業本部市場開発事業部NASマーケティンググループリーダーは、「提供を開始して3週間で、2本合わせて2万ダウンロードを記録した」と語る。ビックカメラ池袋本店パソコン館では、NASに関する個人客からの問い合わせが急増した。周辺機器・メディア担当の鬼澤慶仁スタッフは「NASユーザーの中心は法人だが、これからは個人への販売も期待できる」と手応えを感じている。
NASが売れている理由を、松崎グループリーダーは、「製品の低価格化で購入しやすくなってきたことに加え、自宅に複数台のPCをもつユーザーが増えてきたことが背景にある」と捉えている。もちろん、NASの活用領域を大きく広げる前述の「WebAccess」も、今後のNAS市場を後押しするとみる。
「WebAccess」は、10月、これまで日本語と英語だけだった対応言語に、中国語やドイツ語、フランス語など17言語を加え、計19言語に対応。海外でもNAS製品を展開する強みを生かしながら、アプリを武器に海外でもユーザーを獲得する構えだ。
現在はアップル製端末にしか対応していない「WebAccess」だが、2011年の早い段階でAndroid端末向けのアプリを提供するという。NASの接続先として鎮座していたPCだけでなく、今後、ユーザー層の拡大が期待できるスマートフォンやスレートへの対応を急ぐことで、これまでのNASにはなかったユーザーを確保する。さらに、法人ユーザーにもアプリの活用を積極的に働きかけ、販売台数の拡大につなげる。
カートリッジ式HDDを武器に
AV周辺機器として訴求
一方、メーカーシェア2位のアイ・オー・データ機器(I・Oデータ)は、バッファローとは異なる戦略を展開する。NASをAV周辺機器として位置づけ、スカパーJSATが提供する有料多チャンネルサービス「スカパー!HD」の番組が録画できる「RECBOX HVL-AVシリーズ」を6月に発売した。北川典明第1開発本部アドバンストストレージ製品部NS製品課チーフリーダーは、「外付けHDDとテレビとの関係は1対1だが、NASだと1対複数になる。リビングや寝室のテレビでコンテンツを共有できる」とNASのメリットを強調する。 またI・Oデータは、ラインアップにHDDを抜き差しできるカートリッジ式HDDをもっている。この強みを生かして、HDDをNASにつないでNASの容量を手軽に増やせるようにすることで、カートリッジ式HDDの販売拡大を狙う。独自規格の「REC-iN」は、今年中にスロット付きの「RECBOX」を発売する。「REC-iN」と互換性のある国際標準規格「iVDR」は、来春以降、「RECBOX」のファームアップで対応する予定だ。番組のジャンルや家族でHDDを分けて使う方法を提案していく。
このほか、I・Oデータは一般ユーザーがNASを導入しやすいよう、ネットワークの知識がなくても簡単に接続できる「EasySetup」機能を搭載したモデルをラインアップ。また、外付けHDDとしても使えるように、USB接続に対応するモデルを揃える。「当初は外付けHDDとして使っていても、後でNASとして使える拡張性がある」と北川チーフリーダーは利点を語る。
主要メーカー2社の施策で共通しているのは、PCのヘビーユーザーに加えて、新たなターゲットに向けて訴求している点だ。「一般ユーザーに浸透していない」とビックカメラ池袋本店パソコン館の鬼澤スタッフが話すように、NASはまだ “家庭用デジタル機器” にはなっていない。しかし、スマートフォンやスレート、AV機器など、NASにつながってコンテンツの共有ができる機器は、確実に増えていく。これを起爆剤に、ユーザーにNASの利便性を伝えていくことが、市場拡大への近道だ。(井上真希子)
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