時の人

<インタビュー・時の人>バッファロー 代表取締役社長 斉木邦明

2010/09/09 18:44

週刊BCN 2010年09月06日vol.1348掲載

 国内のPC周辺機器市場をリードするバッファローが、AV周辺機器でも存在感を増している。二つの事業をクルマの両輪にして、2010年上半期(1~6月)の「BCNランキング」では、外付けHDDや無線LANなど11部門でシェアNo.1を獲得した。さらに、国内販売で培ったノウハウを海外市場に振り向けて、売り上げの拡大を狙う。斉木邦明代表取締役社長に聞いた。(取材・文/井上真希子)

国内・海外の販売割合を同率に
グループで売上高2000億円を目指す

Q 2009年にコーポレートステートメントを「デジタルライフ、もっと快適に」に変更した。最近は、AV周辺機器にいっそう力を入れている印象を受ける。

 「事業領域をAVにも広げたが、あくまでも『周辺機器メーカー』という立場は維持していく。例えば、テレビを製造している家電メーカーと競合するような事業は行わない。新しい機能をもったAV周辺機器を活用することで、テレビの楽しみ方を提案していくのが、われわれの役割だと捉えている。


 PC周辺機器事業には、継続して取り組んでいく。6月にモバイル無線LANルータ『ポータブルWi-Fi DWR-PG』を発売したのは、ある意味、象徴的だ。市場の活性化に向けて、ユーザーが『PCを使いたい』と思うような仕組みを業界全体で考え、伝えていく必要がある」

Q 今後の事業計画を聞かせてほしい。

 「中期経営計画には、日本の市場で培った製品力・販売力を、アジア・オセアニア、北米、欧州の海外市場でも生かすことを掲げた。持株会社メルコホールディングス(メルコHD)の国内と海外の売上高を、現在の8対2の割合から、できるだけ早い段階で5対5までもっていき、年間で2000億円を目指したい。

 海外に力を入れていくのは、日本のPC関連市場の成長が海外と比べて鈍いからだ。国内のPC周辺機器でシェアNo.1を獲得しても、世界市場に換算すると売上規模は25分の1程度に過ぎない。この点に大きな危機感を抱いている。

 海外展開には、その国や地域で何が売れるのかという『プロダクトマーケティング』と、どういう機能がユーザーに好まれるのかという『ローカライズ』が不可欠だ。これらを工夫することで販売台数・金額のボリュームを確保し、採算が取れる事業に育てていく。そうすれば、国内市場でも優位に立つことができるだろう。2009年度はメルコHDの全事業で黒字化しており、海外で戦う基盤ができたと感じている」

Q 海外市場での展開に伴って、社内体制をどのように強化するのか。

 「現在は事業部制を敷いていて、製品分野別の組織になっている。こうした縦割りの組織だと、ともすれば業務がマンネリ化し、新しい発想が生まれにくくなる恐れがある。また、どうしてもそのなかでの採算しか考えられなくなってしまう。最近の当社の製品は、AV周辺機器とPC周辺機器、いずれもジャンルをまたがる製品が増えてきている。対応は急務。早い時期に組織再編を行う予定だ」

Q 経営者として、日頃、念頭に置いていることを教えてほしい。

 「海外市場に力を入れるにあたって頭を悩ませているのは、人材が不足していることだ。例えば、仕事ができる社員が語学も堪能だとは限らない。その逆もまたしかり。海外の各国・地域の拠点には、メルコHDという企業の文化や考え方をもったキーマンを置きたい。それには、長期的な視野をもって人を育てていく必要がある。

 経営者として重要なのは、企業の永続性を確保することだと考えている。それを実現するには、閉鎖的な国内市場だけでトップになっていても、あと10年も会社は続いていかないだろう。海外市場で戦っていける企業にならなければ、生き残ることはできない」

・思い出に残る仕事

 メルコの取締役ストレージ事業部長兼生産部長だった1998年、新OSのWindows 98発売のタイミングに合わせて、内蔵HDDにデータ移行ソフトのフロッピーを付けた製品を考案。新しいHDDにデータを移行するとき、別売の専用ソフトを使ったら便利だった、という同僚の話からヒントを得た。当時、PC周辺機器にソフトが付属した製品は珍しかった。

 ゴーサインが出てからすぐにソフトメーカーと交渉し、新OSの発売日には製品を店頭に並べることができ、売り上げも上々だった。こんなふうに、人とは異なる発想を積み重ねることで、地道に販売実績を築いてきた。本人は「単にヘソ曲がりなんだよ」と謙虚だ。
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