時の人

<インタビュー・時の人>サンディスク 社長 小池淳義

2010/04/15 18:44

週刊BCN 2010年04月12日vol.1329掲載

 メモリカードのトップメーカーであるサンディスク。ワールドワイドに展開する同社は、米国やヨーロッパ市場では確固たる地位を築いている。しかし、国内市場では「BCNランキング」で2008年10月から急速に販売数量シェアを落とし、2009年1月には2位のA─DATA Technologyとの差が0.5ポイントまでに縮まった。その原因は何だったのか、そしてどのようにしてシェアを回復したのかを尋ねた。(取材・文/武井美野里)

激戦区の日本市場で地位を確保する
国内でのチップ生産にこだわり

Q シェア下落が始まったのはリーマン・ショックが起こった直後だが、原因は何か。

 「メモリカードは、それまで大量生産でコストが下がり、それでまた市場が広がるという好循環の状況だった。だから、製品を作れるだけ作っていた。それが、リーマン・ショックの影響で景気が悪化し、需要に供給が勝ってしまい、需給バランスを崩した。供給過多は今まで経験がなく、想像していなかったことだ」


Q そうした事態に対応する策は?

 「需給バランスを正常に保つために、減産を断行した。だが、半導体業界で減産は致命的。再び軌道に乗せるのはものすごく大変だった。とはいえ、もともとフラッシュメモリ市場は需要が安定しているし、毎年伸びていた。焦りは禁物、良質な製品を投入すれば必ず持ち直すと考えていた。製品面でいえば、最大で90MB/秒の読取り/書込み速度をもつ64GBのコンパクトフラッシュ『サンディスク・エクストリーム・プロ』など、品質やパフォーマンスの高い製品をタイムリーに出した。景気も少しずつ回復してきたことで、09年の後半からシェアを取り戻すことができた。09年の第1四半期は苦しかったが、第2四半期の決算は全体で非常によかった。この好調ぶりは10年の第1四半期も続いている」

Q メモリカードの国内市場が激戦区となっている理由は?

 「日本はハードやアプリケーションが豊富。メモリカードもそれに敏感に反応していく必要がある。当社は基本開発、チップ、コントローラの生産、パッケージング、ユーザーに届けるまでのプロセスを、責任をもって一貫して行っている点を強みとしている。ユーザーの声を直接聞いて、すぐに製品にフィードバックできる。競合のパナソニックは、自社でチップを作っていない。その面では当社に優位性がある。しかし、パナソニックはハードを多くもっているので、認知度が高い。日本市場が激戦区になっているのは、そういう理由からだ」

Q 認知度を高める施策は?

 「店舗には、メモリカード説明用のPOPを提供している。ただ単に当社の製品をアピールするだけでなく、『この容量なら何枚程度撮れる』など、正しい判断でカードを買ってもらうための情報を記載することで、メモリカード売り場全体の説明ボードとして活用していただいている。当社には、メモリカード市場のリーダーとして業界を育てていきたいという思いがある。このような店頭施策が実り、『サンディスク』の名前が日本でも定着し始めた。また、ワールドワイドに展開する当社は、事実上、メモリカードの業界標準となっており、世界の主要なデジタル機器メーカーは、私どものメモリカードを使ってハードの互換性をテストする。そのため、機器との互換性は非常に高く、ハードメーカー、量販店ともに信頼してお客様にも勧めてくれている」

Q 2010年の目標は?

 「これからはスマートフォンなど携帯電話に大容量コンテンツをどんどん入れていく時代。メモリカード市場はさらに広がっていくだろう。そのなかで、2010年は、2位に大差をつけて販売数量シェアNo.1を獲ることが目標だ。そのために、サンディスクのブランドをさらに浸透させ、米国やヨーロッパに続いて日本での地位を確保したい」

・思い出に残る仕事

日本の半導体業界の成長と軌を一にしてきた小池社長。2000年3月に日立製作所と台湾UMCとの合弁会社トレセンティテクノロジーズを立ち上げた際、世界で初めて半導体のICチップの製造に使うウェハで、300mmのものを作り、新しい生産技術を確立した。それが小池社長の「集大成だった」という。人生をかけて取り組んでいるのは「日本半導体の復活」と語る同氏は、現在サンディスクで、東芝との合弁会社の責任者として、国内の四日市工場でチップを生産することにこだわっている。小池社長はこれからも、日本のものづくり復活に貢献していく。
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