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<BCN座談会>デジタルライフ推進協会を新設 ユーザビリティ向上を提言へ
2010/02/25 18:45
週刊BCN 2010年02月22日vol.1322掲載
牧誠代表理事(メルコホールディングス社長)
細野昭雄理事(アイ・オー・データ機器社長)
田浦寿敏理事(デジオン社長)
家電・IT業界の振興につなげる
誰かが解決しなければ!牧誠 代表理事 |
牧 デジタルライフ推進協会の意図するところは、デジタル機器産業の振興です。既存の団体の対立するものではないことを最初に申し上げておきます。そうした前提に立ったうえで活動を展開します。例えば、今のデジタル機器は、機器がもつ本来の性能を生かし切れていないばかりか、不必要な制約も数多くあります。誰かがこの矛盾に異議を唱えて、解決に導くことが求められている。そこで、当社にとって長年のライバルであるアイ・オー・データ機器の細野(昭雄)さんや、同じ問題意識をもつデジオンの田浦(寿敏)さんに集まってもらったわけです。
細野昭雄 理事 |
細野 地上デジタル放送やBlu-rayなど、デジタルコンテンツを支える機材や仕組みの多くは、家電メーカーや放送事業者が主導権を握って構築してきた経緯があります。私たちはパソコン業界に軸足を置いているため、なかなか次世代のデジタルコンテンツの枠組みづくりに意見を通すことができなかった。そこで今回、業界団体という組織をつくることで発言力を高めようと考えています。
──地デジ放送への完全移行は2011年7月に予定されていますし、Blu-rayはすでに固まった規格です。デジタルコンテンツの枠組みは、すでに完成されてしまっていますから、少し時機を逸した印象を受けますが。
細野 いえ、そんなことはまったくありません。家電メーカーなどが描いている将来像と、現状では大きな差異があります。例えば、地デジ放送を録画しますよね。このコンテンツをパソコンやモバイルコンピュータなどの機器で見ようとしても、なかなかうまくいきません。そもそも「ダビング10」で、なぜ10回なのかといえば、録画した機器とは別の機器で見たり、モバイルで外に持ち出したりするため。もし、録画した機器でしか再生できないのであれば、ダビングは1回で十分のはずです。
田浦寿敏 理事 |
ユーザー視点で提言する
──確かに、DLNA規格では、携帯電話やプリンタなども認定対象にしていますし、近い将来はホームネットワークを使って映像や音楽を楽しめるようになると謳っています。
牧 当協会の考え方は、家電メーカーや日本のデジタルコンテンツ産業にとって大いにプラスになるものです。今、世界中でデジタル放送が始まっていますが、実は日本ほど画質に優れたデジタルコンテンツ映像を家庭に届けている国は、ほとんどないのです。
その反面、テレビなどの機材の価格はどうしても高くなる。欧米のテレビ放送用コンテンツの精細度を考慮すれば、何もフルハイビジョン対応のものでなくてもいい。つまり、比較的値段の安い新興国のテレビで十分なのですね。すると、日本メーカーのものは、質はよくても売れないという結果になります。では、どうしたらいいのかと考えたときに導き出されるのが、ユーザビリティの向上なんです。逆に、オープンさやユーザー視点が欠落したまま、画質一本で攻めていっても勝てないということです。
──ハードメーカーはこれまで、著作権保護・管理技術の開発に力を注いできましたよね。これが行き過ぎた結果、自身を束縛し、成長の芽を摘みとっている、と。
細野 著作権を守る技術や仕組みに磨きをかけていく方針は、私たちを含めた主要メーカーの一致するところです。しかし、これによってユーザビリティを失ってしまっては、本来、目指したデジタルライフの実現は難しい。アナログ時代にできていたことが、デジタルになると「あれもダメ」「これもダメ」となると、ユーザーの支持は得られません。これではメーカーもコンテンツホルダーも、ユーザーも誰も幸せになれない。端的な例でいえば、当社が市場に投入しているパソコン用テレビチューナーの地デジ対応版は、アナログ製品に比べて数分の1しか売れていない。アナログ製品でできていたことの多くが、デジタル対応版では制約がかかる。ユーザビリティの欠如をユーザーは敏感に感じ取っているのです。
田浦 念のために言い添えますが、当協会では、「著作権管理をなくしてしまえ」などといった不遜な考えはまったくありません。これまで積み重ねてきた著作権保護・管理技術は、本来ならアナログ時代のユーザビリティを損なうものではなかった。にもかかわらず、いつのまにか、がんじがらめの窮屈なものになってしまった。
牧 エンジニアが仕様書を厳密に解釈すればするほど、何もできなくなってしまうのが今の姿だと思うのですよ。本来描いた姿が、いつのまにか別のものに変わってしまっている。恐らく、これは家電メーカーも含めた関係者の多くが理解していることだと思うのですが、変革するきっかけが見つからない。当協会では、そのきっかけをつくり、ユーザー視点に立った、より豊かなデジタルライフを実現していきます。
──ありがとうございました。
■協会設立の背景にあるもの
思考停滞が発展を阻害する
地上デジタル放送や次世代光ディスクメディアの開発においては、国際的な巨大企業が幅をきかしている。資本力で及ばないパソコン関連メーカーは、「門前払い」(周辺機器メーカー関係者)になることが多いという。家電メーカーが得意とする垂直統合型による顧客の囲い込み戦略は、世界的なオープンな流れに逆行している。今、iPodやiPhoneが勢力を急拡大させたのは、日本の電機メーカーの弱点を巧みに突いた結果にほかならない。
デジタル映像全盛になった現在、家電メーカーは依然として自身の得意な囲い込みビジネスに固執している印象を受ける。オープンな世界に足を踏み入れたら“負ける”と思っているかのようだ。こうしている間にも、アップルのような米パソコン系メーカーや、韓国や中国など新興家電メーカーが次々と新しい製品を世に問う。日本の家電メーカーが、このまま思考の停滞状態にいれば、生き馬の目を抜く世界市場で勝ち残れない。
「日本の家電メーカーが衰退すれば、われわれパソコン周辺機器メーカーも埋没する」(牧誠・代表理事)と、デジタルライフ推進協会の設立に踏み切った。(週刊BCN編集部)
地上デジタル放送への移行やパソコンでのテレビ視聴など、新たな視聴形態を「デジタルライフ」と位置づけ、ユーザーにとって便利で健全なデジタル社会の発展を目指す。映像や音楽などのデジタルコンテンツを巡る規格やルールづくりは、家電メーカーや放送事業者、コンテンツホルダーなどが主導してきた。パソコン関連を主力とするベンダーが、こうした動きに積極的に関与することはこれまで難しかったが、推進協会を設立することで発言力の増強を狙う。
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