店頭流通
「カナル型」がイヤホン市場をけん引 「iPhone」やゲーム普及が後押し
2010/01/07 16:51
週刊BCN 2010年01月04日vol.1315掲載
遮音性を求める声が大
現在のイヤホン市場では、耳介に引っかける「インナーイヤー型」よりも、耳穴深くに差し込んで使用するタイプの「カナル型」が主流になっている。その理由について、ソニーの荻原信也・コンスーマーAVマーケティング部門マーケティングマネジャーは、「装着感と遮音性に優れていることが挙げられる。市場環境としては、音楽の聴ける携帯電話や携帯ゲーム機が普及し、いままでイヤホンを使う機会が少なかった人が利用している」と、利用環境が多用途化したと指摘する。ヘッドホン・イヤホン市場でメーカー別シェアトップのオーディオテクニカも、「通勤・通学時に携帯オーディオや携帯電話などで音楽を楽しむスタイルが普及し、付属のイヤホンよりも高音質なタイプを求めるユーザーが増えている」(広告宣伝課の品川力氏)と話す。なかでも「カナル型」は遮音性が高く、電車内の騒音問題に配慮するだけでなく、「音に集中できる」(同)ことから人気を集めているという。
09年は、こうした市場背景を踏まえて主要メーカーから「カナル型」のイヤホンの低価格モデルが相次いで投入された。BCNランキングによると、これにより「カナル型」イヤホンの平均単価は、08年12月の2683円をピークに下がり始め、09年11月に2230円までになっている。低価格化することは、メーカーや量販店の粗利益減少を招くため、各社では付加価値を高めて販売金額を引き上げる策を講じている。ソニーは高音質やノイズキャンセリング、Bluetoothなどの付加価値機能を充実させ価格アップを図る考え。
しかし、「低単価帯を求めるユーザーが、いきなり高価格帯の製品には手を出さない」(野田万紀子・コンスーマーAVマーケティング部門 シニアマーケティングマネジャー)ということも懸念。まずはカラーバリエーションと音質の両面を満たす2000~3000円台のモデルに注力するとして、09年9月には「MDR-EX77SL」と「MDR-EX57SL」の2機種を発売している。この「決して安くはないし高くはない」(野田氏)価格帯のラインアップを厚くし、平均単価の下落に歯止めをかけることを狙う。
ケータイ売り場にも展開へ
一方のオーディオテクニカは、従来「原音再現」を目標にしてきた。ただ、「低音表現を重視したモデルが若者に好まれている」(品川氏)ため、09年6月に低域を拡張した同社初の製品「ATH-CKS70」(8925円)を投入。これが店頭で人気を博し、09年の同社のイヤホン製品全体をけん引し、平均単価の下落を食い止めた。オーディオテクニカでは「iPhone」の急速な普及で、Bluetoothが今後のトレンドの一つになるとみている。同社は店頭で、来店者が実際に試聴して製品を選べるよう、販売店に展示方法を提案している。ソニーは、高価格帯モデルだけでなく、2000~3000円台の製品でも試聴機を置いてもらえるよう店頭に働きかけている。このほかBluetooth対応製品は、携帯電話売り場にも展開していく方針だ。
一方、「売り手」側であるビックカメラ有楽町店本館・オーディオコーナーの宮地貴隆主任は、「08年からイヤホンはよく売れている」と語る。「カナル型」イヤホンは「耳にフィットしやすく、音漏れが少ない。最近では音質面も向上している」ため人気だと説明する。同店で販売されるイヤホンのうち、「カナル型」が占める割合はおよそ半分。新製品の大半が「カナル型」ということもあり、市場で主流となっている。実際、BCNランキングでも、09年11月時点で「カナル型」がヘッドホン・イヤホンの55.1%を占めている。
メーカー側で捉えているニーズと同じく、最近は「低音がよく響くモデルがほしいなど、具体的なニーズが増えている」(宮地主任)という。これを裏付けるように、“売れ筋”製品の価格帯は1.5~2.5万円。「年末という時期を考えても、通常より1~2ランク上」の製品が売れる傾向にあるという。
一方で、3000~4000円代の製品も一定の人気を確保。中心はレースのようなデザインが特徴のビクター「HP-FXP5」など、女性向けの製品だ。「男性は音質にこだわり、女性はデザインと価格にこだわる」と語る宮地主任。今後のイヤホン市場は「どれだけ音質を高めるかの機能競争になる」(同)と、コストパフォーマンスを追求する傾向が強まると予想している。
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