大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>121.なぜ、エプソンは新プリンタにEP型番をつけたのか

2008/11/10 16:51

週刊BCN 2008年11月10日vol.1259掲載

 エプソンが年末商戦向けのインクジェットプリンタ「Colorio(カラリオ)」シリーズの新製品を発売した。

 10月8日の発売日は、今年からイメージキャラクターとなった緒形拳さんの突然の訃報がその前日に入ったことで、故人に配慮し広告を差し止めるという異例の状況で迎えたが、販売にはまったく影響していないという。実際、発売週からトップシェアを獲得。機種別でも首位に躍り出ている。

新製品で大幅な転換図る

 エプソンが新製品で訴求したかった「先進感」「本格感」「技術感」を、緒形さんのイメージで浸透させたかったという狙いが、わずか1週間という訴求で終わってしまったが、前哨戦ではその威力が発揮されたかもしれない。上位機種の売れ行きが好調であることからもそれは裏付けられよう。

 実はエプソンは、今年の新製品で、大幅な転換を図っている。

 ボックス型ともいえる新たなデザインを採用するとともに、このデザイン変更にあわせて、メカを一から見直すといった取り組みを開始。機能面での進化は、100か所以上にのぼるという、まさに新世代のプリンタとなっている。

 また、カラリオのブランドビジョンを再定義し、これまでの「写真を美しく彩るプリンタ」から、「暮らしをカラフルに彩るパートナー」へと変更した。同時に、Colorioのロゴも一新し、そのなかの「i」という文字を「わたし」と定義。それを取り囲むように「安心」「快適」「キレイ」「スタイリッシュ」「環境」「未来」という6つの切り口から、様々な提案を目指した。

 機能面での訴求をやめ、生活のなかでいかにプリンタを身近なものにしてもらうか、いかにプリントしてもらうか、といったように、「使いやすさ」にコンセプトを置く、開発姿勢の大転換ともいえるものだ。

 「年賀状と、たまに旅行した時に撮影した写真以外にも、もっと気軽にプリントしてもらうためにはどうするか。それをトコトン議論した」というのが、今年の新製品の基本的な考え方だ。

型番変更に強い想いが

 だが、そのなかでも、特筆できる変化があった。それは今回の新製品の型番に、これまでの「PM」をやめ、新たに「EP」を採用したことだ。というのも、EPは、エプソンの社名の由来ともいえる型番だからだ。

 エプソンの前身となる旧・信州精器が、世界初の小型軽量デジタルプリンタとして「EP-101」を開発。EPシリーズの子供たちとなる製品を、世の中に数多く送り出すという願いを込めて、「SON(息子)」という言葉を組み合わせたEPSON(エプソン)のブランドを立ち上げた。それから7年後の82年には、EPシリーズの成功を背景に、エプソンを社名に採用した経緯がある。

 つまり、EP型番は、エプソンの原点でもある型番なのだ。しかも、今年はEP-101発売から、ちょうど40周年の節目の年でもある。エプソンは、この型番の変更には会見ではひとことも触れなかった。しかも、こちらから指摘するまで、誰も幹部、社員は言おうとしなかった。それだけ、エプソンの型番変更に強い想いを込めている気がした。
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