大河原克行のニュースの原点
<大河原克行のニュースの原点>113.パナソニックへの社名変更で何が変わるか
2008/09/15 16:51
週刊BCN 2008年09月15日vol.1251掲載
大坪文雄社長は、「日が近づくにつれ、緊張感から高揚感へと変わりつつある」と、いまの心境を語る。そして、「松下、ナショナルに、ノスタルジーを感じることはない」とも言い切る。
変更費用は400億円にも
1月10日の経営方針説明会で、松下電器産業からパナソニックへの社名変更および国内向け白物家電ブランドであるナショナルをパナソニックブランドへ統一すると発表。その後、6月の株主総会での承認を経て、夏以降からは、パナソニックブランドの家電製品の投入が開始されている。こうした経緯を経て、大坪社長をはじめ、グループ社員の意識は、大きく変化しはじめているというわけだ。
社名変更に向けた作業は急ピッチで進んでいる。実務レベルでは、社名変更に伴う看板の変更、名刺の変更のほか、全国5800店舗のスーパープロショップをはじめ約1万8000店舗ある地域販売店の看板も付け替えが行われる。看板の付け替え費用だけで、約200億円が計上される規模だ。
さらに、これまで松下電器と松下電工とで異なっていた社章を、「Panasonic」のロゴに一本化。社歌も、久石譲さん作曲、森雪之丞さん作詞による新たなものが採用され、グループとして統一される。加えて、朝会で唱和する創業7精神を記した「巻物」も、10月1日以降は、書籍のような、いわば「バイブル」の形状へと変更され、松下幸之助氏の精神はそのまま引き継がれることになる。
一方で、知財関連では、約10万件ともいわれる保有特許の名称を変更するだけでも、数十億円の費用がかかる。情報システムでも、社名変更に伴うシステム変更費用が数億円規模で発生する。
同社の試算によると、社名変更、ブランド変更に関する費用は、約400億円。だが、ブランドを一本化したことによる効果などにより、2年で、この投資は回収できるとしている。
領域を越えた商品を開発
大坪社長は、パナソニック、松下、ナショナルと分散していたブランドを一本化することで、グローバルブランドとしてのメリットを追求する考えだ。「ナショナルブランドを、手放すことは大きな決断。だからこそ、手放す以上の価値を強く生み出していかなくてはならない。断腸の思いはあるが、松下の発展につながる決断であると信じている」
そのひとつが、ドメインをまたいだ商品の創出だ。
「これまでは、どうしても、ドメインごとの売り上げを優先する傾向があった。また、担当する市場領域だけを考え、そのなかで完結する商品づくりの思考が強かった。パナソニックブランドに一本化することで、部門に閉じた考え方がなくなるベースができあがる。その結果、これまで以上に強い商品を創出できるようになる」と期待する。
成功体験を持った松下が、より一段強い商品を作るためにパナソニックへと生まれ変わる――それが実現できる社名変更へとつなげることができるかどうかがカギを握ることとなる。
- 1