大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>107.ソニーが新中計で打ち出した「サービス戦略」とは

2008/07/28 16:51

週刊BCN 2008年07月28日vol.1245掲載

 ソニーが発表した2010年度を最終年度とする中期経営計画の会見の席上。ハワード・ストリンガーCEOは、「アップル」という言葉を何度も繰り返した。計画のなかで、アップルを意識した戦略に踏み出すことを明確に示したからだ。その戦略とは、コンテンツを活用した新たなビジネスモデルに、本腰を入れることである。

■iPodの成功戦略をなぞる

 このモデルは、アップルがiPodの普及戦略で成功を収めたモデルともいえるものだ。iPodユーザーは、手軽にオンラインで入手できるiTunes Storeから楽曲や映像を購入。それをiTunesという操作性の高いソフトによって管理することで、iPodの利用環境を他社の追随を許さないレベルに高めた。

 もちろん、ソニーもウォークマンにおいて、同様の施策を展開してきた。だが、ストリンガーCEOが、「アップルのすばらしさは、ソフトに尽きる」と指摘するように、ソフトの完成度ではアップルに一日の長があり、デジタルオーディオプレーヤーの出荷実績では後塵を拝しているのが実状だ。

 だが、ソニーは今回の中期経営計画で、コンテンツを活用したサービスをテコに、ハードの売り上げ拡大を図る姿勢をみせた。

 具体的には、2010年度までに製品カテゴリーの90%をネットワーク機能内蔵およびワイヤレス対応とすることで、音楽や映像を利用できるベースを整える。さらに、今夏には、サービス事業の第1弾として、PLAYSTATION Network上で、PlayStation向けにビデオ配信サービスを開始。さらに、仮想ワールドであるPlaystation Homeのサービス開始、ゲーム内動的広告の配信事業への取り組み、必要な情報を瞬時に得られるといった生活に密着した情報提供サービスとなるLife with Playstationを開始することを発表した。

 また、11月には、米国市場限定ながらも、ウィル・スミス主演の映画「ハンコック」を、DVD発売に先駆けて、液晶テレビ「BRAVIA」に対して、ネットを通じて配信するサービスを開始する。

■「駒」の豊富さ生かせるか

 見逃せないのは、アップルがiPodやiPhone、マックという限定的なデバイスへのサービスであるのに対して、ソニーは、薄型テレビ、BDレコーダー、ゲーム専用機、PC、携帯電話など、製品が広範囲に広がることだ。90%の製品カテゴリーで、ネットワーク対応を図ることになれば、その範囲はさらに広がるともいえる。

 そして、ソニー自身がコンテンツを持ち、それを戦略的に利用できることや、収益に直接つながるという点も重要なポイントだ。

 アップルの場合は、第三者が持つコンテンツを代理販売しているに過ぎず、収益への貢献度は極めて低い。アップルによると、iTunes Storeでは、過去5年間にわたり、50億曲以上の累計販売を達成したが、1曲99セントで単純計算すれば、約50億ドルの売上高。年間10億ドル程度にしかならない。07年度実績で売上高が240億ドルのアップルにとっての影響力は低く、収益面での貢献度も低い。

 その点、ソニーは、直接、コンテンツでも収益拡大につなげることができる。ソニーには、「駒」が揃っている。この駒を、サービスという戦略のなかでどう生かすかがこれからのポイントだ。
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