店頭流通
トレンドマイクロ 躍進の背景に3ライセンス戦略 ──PCを複数利用する家庭に照準
2008/05/05 18:45
週刊BCN 2008年05月05日vol.1234掲載
きっかけは「ウイルスバスター 2007」
2006年9月、トレンドマイクロが発売した「ウイルスバスター 2007」は、それまで1本1ライセンスが常識だったセキュリティソフトのライセンス数を一気に3ライセンスに拡大した。さらに値下げも断行。旧版の「ウイルスバスター 2006」では1ライセンスで8925円だったが、続く「ウイルスバスター 2007」では3ライセンスで6594円(実勢価格)と大幅に価格を下げた。逆に更新料は3150円から4725円に値上げ。販売本数でのシェア拡大を狙い、ユーザーの初期負担を抑え、更新料で収益をカバーするビジネスモデルに切り換えた。この戦略についてトレンドマイクロは、「PCの所有世帯の増加に加え、3台まで保有している数が全体の9割を超えていることが自社調査でわかった。しかし、3台全てにセキュリティソフトを搭載している世帯は数割程度しかなかった」とし、「メインPCだけでなく、サブPCも含めたセキュリティを提供したいと思いラインアップの変更に踏み切った」と説明した。
3ライセンス版は他社にも波及した。シマンテックは07年3月の「ノートン360」から、ソースネクストが08年2月の「ウイルスセキュリティ ZERO」から3ライセンス版に絞った展開を始めている。こうした背景から、セキュリティソフトの3ライセンス版は、07年9月に販売本数構成比で5割を突破。直近の08年3月では、8割を超えるまでに拡大した。
3月の製品別販売本数シェアでも、トップ10に登場する全ての製品が3ライセンス版だ。1位は、ソースネクストの「ウイルスセキュリティZERO 3台まで使える新パッケージ版」でシェア22.3%。更新料0円というのが最大の特徴で、Windowsの公式サポート期間中は毎年の費用がかからない。2位はシマンテックの「Norton Internet Security 2008」。3位から6位は、トレンドマイクロの「ウイルスバスター2008」シリーズが占めた。
トレンドマイクロがトップ 波乱の幕開けか?
ライセンス数の変化は、メーカー別の販売本数シェアにも大きく影響している。これまでセキュリティソフトで不動の1位を保ってきたシマンテックの牙城が崩れ、3月、トレンドマイクロが販売本数シェア32.1%で1位を獲得した。05年3月から3年間のBCNのデータでも、月次集計で1位を獲得したのは今回が初めて。一方のシマンテックは、07年の10月以降急激にシェアを落とし、26.2%で2位に甘んじている。しかも3位のソースネクストは 24.2%ですぐ背後に迫っている。トレンドマイクロが1位を獲得した背景には、「ウイルスバスター2008」で販売促進策を大幅に見直したこともあるようだ。パッケージデザインのリニューアルや首都圏の中吊り広告、テレビCMなど大規模な広告展開を3月中旬に実施。また、「軽快」「簡単」「安心」をキーワードに従来の概念とは違ったメッセージで販促活動を行った。これらの策も功を奏し、メーカーシェアの拡大を後押ししたとみられる。
99年以降9年連続で年間の販売本数トップを獲得し続けているシマンテックが、1か月とはいえ1位の座を明け渡した衝撃は大きい。しかし、同社は昨年秋「ノートン・ファイター」を起用したキャンペーンでシェアを急激に伸ばした実績がある。3月6日に発売した「NORTON 360」では、新たな「ノートン・ファイター」キャンペーンを開始しており、その効果次第ではトップシェア奪還も十分考えられる。そこに、製品別で1位をキープするソースネクストも僅差で接近。セキュリティソフトは、上位3社による三つ巴の様相がますます濃くなってきた。(津江昭宏)
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