大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>90.パイオニアPDP生産撤退で予感させる事業再編

2008/03/24 18:44

週刊BCN 2008年03月24日vol.1228掲載

 パイオニアが、プラズマパネル(PDP)の自社生産から撤退する方針を発表した。今後のPDP調達については、松下電器産業と話し合いを進めている段階で、詳細が決まり次第発表される。

 また、資本参加を得ているシャープから、液晶パネルを調達することを正式に発表。2008年秋にも液晶テレビ事業に参入することになる。新たな戦略では、50インチ以上をプラズマ、40インチ台以下を液晶とする考えだ。

■高機能戦略は堅持する方針

 今年1月に米ラスベガスで開催されたCESでは、全世界の報道関係者を対象に記者会見を開き、薄さ9mmという同社技術の粋を集めたプラズマディスプレイのプロトタイプを大々的に発表。その展示を中心に、他の独自技術によって展開される今後のプラズマテレビ事業への取り組みを発表していただけに、今回の撤退発表は突然という感が否めない。

 PDP生産については、NECが所有していた鹿児島の生産拠点を買収。パイオニアが拠点とする山梨、静岡とともに、同社の技術力を生かしたパネル生産を展開してきた。

 だが、今回の発表では「大きな会社と伍しては戦えない。今後想定される販売数量では、競争力を維持することは困難と判断し、外部調達に切り替えることにした。設備投資型のビジネスモデルから、付加価値提案型のビジネスモデルに転換する」(パイオニア・須藤民彦社長)として生産拠点を閉鎖。垂直統合型から水平分散型へと転換することになる。

 同社では、昨年から「KURO」を中心とした高機能戦略を打ち出して、同社プラズマテレビにおける黒の再現性の強みや、得意としてきた音響技術との組み合わせによる差別化を訴求してきた。

 だが、パワーユーザーの高い評価とは裏腹に、他社のプラズマテレビと比較して約2倍近い価格設定となっていたため、販売数量は限定的なものになっていた。

■協業と収益力向上が課題

 須藤社長は、「共同開発と呼ぶのか、生産委託と呼ぶのかは分からないが、パイオニアが求める画質を追求するには、パネル調達先に対して技術を提供していく必要がある」として、依然として、差別化したプラズマテレビの投入が可能であることを示唆し、この部分については、方針転換がないことを強調する。

 当面の課題は、自社保有の特許技術などを背景にしながらも松下電器との関係をどう維持するか、また限定された販売数量のなかでどう収益性を高めるかということだ。いずれにしろパイオニアはPDP生産から撤退し、身軽になって2009年度にはホームエレクトロニクス事業の黒字転換を目指す。

 液晶テレビ事業への新規進出、プレーヤーに絞り込むとしたブルーレイディスク事業の転換、成長分野であるカーエレクトロニクス事業の拡大戦略、薄型テレビ向け音響技術の開発やシャープとのシナジーの追求など、パイオニアを取り巻く状況は一変した。

 そのなかで、須藤社長は「事業の売上規模に見合った体制のスリム化」を掲げたものの、具体的なリストラ策についての言及は避けた。この言葉を濁すところに、これから大きな事業再編が待っているような気がしてならない。
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