大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>89.シャープ、ソニーの協業にみる真の狙い

2008/03/17 18:44

週刊BCN 2008年03月17日vol.1227掲載

 シャープとソニーが発表した大型液晶パネルモジュールの生産、販売の合弁会社設立は、両社の薄型テレビ事業拡大に向けた重要な布石となる。

■「半垂直統合」下の世界戦略

 ソニーの中鉢良治社長は、「液晶パネルの安定調達が可能になり、名実ともに世界一のテレビメーカーを目指すことができる」とコメント。韓国サムスンとの合弁であるS-LCDからの調達に加えて、事業拡大に向けた地盤を整えることができたことを強調した。

 海外でのブランド力を生かして薄型テレビ事業での覇権を狙うソニーにとって、物量を確保することは最優先すべき課題。液晶テレビでは「半垂直統合体制」(中鉢社長)で戦わざるを得ないソニーは、収益性を高める物量戦略が必須となる。

 ソニーは、堺工場で生産が見込まれる月7万2000枚(フル稼働時)の34%にあたる液晶パネルの調達を確保したことで、世界市場に向けた拡大戦略を描くことができるようになった。

 また、ソニーの有機EL戦略においても、この提携がプラスに働く可能性がある。ソニーは有機ELの開発、生産体制の強化に努めており、先日220億円を投資することを発表したばかり。将来的には40インチ台の製品化も視野に入れている。その際、大画面有機ELパネルを生産できる設備の確保が課題ともなっていたのである。

 液晶と有機ELは技術が似ているため、液晶の生産施設を有機ELのそれへと転換することが可能。松下電器産業が発表した姫路の液晶パネル新工場計画を、「有機ELの量産に向けた布石」(松下電器パナソニックAVCネットワークス社・坂本俊弘社長)としているのも、施設転換が可能だからだ。

 ソニーも今回の出資によって、松下同様に将来の大画面有機ELパネル生産への布石ができたとみることができる。

■シャープの思惑は?

 一方、シャープの片山幹雄社長は、「ソニーは力強いメーカー。パネルの品質、画質、コスト面での改善が図られるだけでなく、関連部材の技術革新も期待される。日本の液晶事業の強化につながり、これによって世界ナンバーワンの液晶パネルメーカーを目指す」と説明する。

 シャープは新工場への投資負担を軽減できるとともに、パイオニア、東芝に続き、薄型テレビで世界最大シェアを誇るソニーとの協業体制が確立したことで、液晶パネルの供給先にもめどをつけたといえる。

 さらに、「海外においては、共同でモジュール生産までを行うことを検討したい」(片山社長)として、海外における共同生産体制を視野に入れていることを明らかにしており、今回の協業がシャープの今後の投資戦略や海外戦略にも、影響を及ぼす可能性を匂わせている。

 シャープはソニーを巻き込むことで、液晶事業の安定成長を確保する地盤を整えた。「資本はソニー以外には受け入れる予定はない」(片山社長)として、東芝の協業と一線を画していることも見逃せない。

 S(ソニー)とS(サムスン)によるS-LCD以上に、今度のS(ソニー)とS(シャープ)との協業は、絆が深いものになりそうだ。
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