大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>87.姫路新工場にみる松下電器の垂直統合体制

2008/03/03 18:44

週刊BCN 2008年03月03日vol.1225掲載

 松下電器産業は、液晶パネル事業を行うIPSアルファテクノロジの新工場を兵庫県・姫路市に建設すると発表した。

 2008年8月から着工し、10年1月から稼働する予定。第8世代のマザーガラスで生産し、フル稼働時には、32インチ換算で年1500万台の生産が可能。IPSアルファテクノロジの茂原工場は、今年9月には年産600万台の体制となることから、あわせて年間2100万台の生産体制を確立することになる。

■液晶の領域を拡大

 建設予定地は、兵庫県姫路市の旧出光兵庫製油所跡地で、敷地面積は48万平方メートル。関西空港、神戸港、姫路港が近く、海外拠点へのアクセスが便利なことに加え、ガラス、カラーフィルターをはじめとする部材・薬液メーカーや、関西電力、大阪ガスといったユーティリティ供給会社に隣接している好立地だ。

 「新工場は、TFT・LCD棟、モジュール棟、カラーフィルター棟、ユーティリティエリアの建設を予定しているが、まだ広大な敷地があり、拡張の余地がある。コンビナート的な形とし、輸送コスト削減、短TAT(工程短縮)、在庫低減といった観点からコスト競争力を高めることができる」(IPSアルファテクノロジの米内史明社長)という。新工場では、32インチに最適化したパネル生産ができるとしているが、このパネルサイズは46インチでの効率生産が可能なパネルサイズともいえる。

 松下電器では、37インチまでを液晶テレビとし、それ以上はプラズマテレビを軸に展開するが、昨年までは32インチ以下を液晶、37インチ以上をプラズマとしていたことを翻したように、液晶の領域を広げてきた経緯がある。

 さらに松下電器では、「地域ごとの需要や、顧客の好みの変化によって、40インチ台の液晶テレビを作ることも考えられる」(松下電器産業パナソニックAVCネットワークス社・坂本俊弘社長)というように、液晶テレビをより大画面へと広げる姿勢をみせている。

 その点でも、姫路の液晶新工場は、今後の松下電器の液晶テレビ戦略の重要な拠点となる。

 加えて見逃せないのが、「姫路の新工場は、液晶パネルと技術的共通点が多い有機ELディスプレイパネルの生産も視野に入れたもの」(松下プラズマディスプレイ・森田研社長)とした点だ。

 「将来的にはIPSアルファの新工場で有機ELディスプレイへの展開を視野に入れ、薄型テレビ事業における垂直統合型ビジネスをより積極的に推進する」と続ける。

■三本柱で世界市場に臨む

 これにより、松下電器はプラズマ、液晶、有機ELの3つの生産拠点を、垂直統合体制で整えることになる。プラズマだけではグローバル市場での勝算がないと判断して10年には液晶においても世界規模で戦える体制を垂直統合で整える。また、09年にはプラズマパネルの尼崎第5工場を稼働させ、こちらの強化にも余念がない。

 松下電器は15年には薄型テレビ市場が2億台を超える市場に成長すると予測している。そのうち、37インチ以上の構成比が50%を超えるとみており、ここで25%のシェアを獲得する考えだ。姫路新工場は世界で戦うための重要な布石となる。
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