大河原克行のニュースの原点
<大河原克行のニュースの原点>80.NECの新ブランドに求められる忍耐力
2008/01/14 18:44
週刊BCN 2008年01月14日vol.1218掲載
「新ホームサーバ・クライアントソリューション」と呼ぶこの製品群は、ホームサーバーとそれをネットワークで結んだシンクライアントによって構成される。
NECが、ノートPCともデスクトップPCとも異なる新たな独立したブランドを用意し、製品出荷が数か月先であるにもかかわらず、事前の認知を高めるための活動を開始した動きをみると、同社が継続的に、この事業に取り組んでいく意欲がうかがえる。
■チャンネル争いをなくす技術
ノートPCがフランス語で「生活」を意味する「LaVie」というブランドであるのに対して、LUiは、英語の「Him」に当たる二人称。より個人に特化したPC利用環境の実現を、LUiという新たな製品に託したともいえる。
LUiでは、パソコン機能とハードディスクレコーダー機能を搭載した「ホームサーバーPC」と、ノートタイプとポケットタイプの専用クライアント端末「PCリモーター」を用意。PCリモーターをブロードバンドネットワークに接続して、ホームサーバーPCに蓄積されたコンテンツやサービス、そしてPC機能が、いつでもどこでも、簡単に利用できるようになる。
NECでは、音楽データや映像、写真、デジタル放送などのデジタルコンテンツをどこでも見られる「コンテンツオンデマンド」と、自宅にあるホームサーバーPCのアプリケーションソフトなどを別の部屋や外出先で利用できる「PCオンデマンド」を、この新ホームサーバ・クライアントソリューションで実現する計画だ。
分かりやすくいえば、「家族のチャンネル争い、リモコン争いをなくす技術」とNECは説明する。
■仕組みはシンクライアント
一方のPCリモーターはどうか。NECでは、ビジネス用途を想起させるシンクライアントという言葉は使わないようにしているが、その仕組みはシンクライアントそのものだ。高性能なCPUを搭載せず、ハードディスクを不要にし、余計な機能を取り払うことで、大幅な軽量化や長時間稼働が可能になる。発売が予定されているPCリモーターに搭載する基板は、トランプよりも小さく、ポケットタイプの製品で総重量は250gにとどまる。有機ELディスプレイやシート型バッテリーなどを搭載すれば、さらに薄くすることもできる。
課題は、ブロードバンドインフラの整備だ。クライアントとなるPCリモーターには、アプリケーションソフトを常駐させない仕組みとし、すべての作業はネットワーク接続によって実現する。そのため、スレトスなく動く帯域確保が必要だ。とくに、モバイル環境でいかにブロードバンド環境が整うか、そして、その料金体系が利用者の負担を感じさせないものになるかがポイントとなる。
HSDPAの普及や、モバイルWiMAXの動きが08年後半から現実のものになるなど、インフラは整う方向にはある。だが、このタイミングでの投入は明らかに一歩早い。LUiは、NECが提案する新たな家庭向けPCの形ともいえるものだ。立ち上がりの困難は容易に想像できる。一番の課題は、これを続ける「忍耐力」だとはいえまいか。
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