大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>77.ソニーが有機ELの「登場感」を演出

2007/12/10 18:44

週刊BCN 2007年12月10日vol.1215掲載

 ソニーが、世界初の有機ELテレビ「XEL-1」の店頭販売を、11月22日から開始した。

 当初の予定では、12月1日からとしていたが、全国700店の主要店舗の展示にあわせて、一部店舗で販売をスタートした。

 ソニーでは、白を基調とした専用の展示用什器を用意。測定限界を越えるという高いコントラスト比や黒の再現性、高い応答速度や広視野角を体験してもらう一方、モックアップ(模型)を横向きに設置し、幅3mmという有機ELテレビならではの薄さを訴求する。

■放送デジタル化を見据えて

 だが、ソニーは、年末商戦において、有機ELテレビの実売にはそれほどこだわっていないようだ。

 年内2000台という生産台数に対して、その3分の1にあたる700台という異例の数の店頭展示を行ったことでも、実売を優先していないことが明らかだろう。

 また、11月上旬から、成田空港のJALファーストクラスラウンジ、東京・高輪のレクサスギャラリー高輪での展示のほか、12月からは六本木のリッツカールトンホテル東京のクラブラウンジにも製品を展示。販売機能を持たない場所で先行展示を行っていることからもそれは裏づけられる。

 加えて、「登場感」に対する演出にも力を注いでいる点も意味がある。東京・銀座のソニービルでは、9月下旬にビル全体を緑色のリボンで装飾。「XEL-1」の発表翌日に、そのリボンを解いて見せる演出を行い、世界初の有機ELテレビの「登場感」を訴求した。これは、短期的ではなく中長期的なマーケティング戦略上での演出といっていいだろう。

■次代に向けた「布石」

 では、なぜ、ソニーは、年末商戦での販売よりも、中長期的な訴求を優先するのだろうか。

 薄型テレビ市場は、2011年7月に予定されている地上放送の完全デジタル化に向けて、むしろこれから本番を迎える。その需要の本格期を迎えるのにあたり、有機ELをテレビの選択肢のひとつとして位置づけてもらうことが先決だと判断した。

 この年末商戦では、出荷台数が2000台に限定される有機ELテレビの販売を急ぐよりも、店頭展示を優先することで多くの来店客に有機ELの存在感を訴求。同時に、有機ELが持つメリットを視覚的に訴求することで、将来の選択へとつなげることが、この分野で先行するソニーにとって大きなメリットとなる。

 液晶テレビでは、サムスンとの合弁によるSーLCDにおいてパネル生産を行うが、完全な形での垂直統合体制を取れないままのソニーにとって、垂直統合体制となる有機ELは、ソニーの次代における収益の柱。中鉢良治社長が、「有機ELテレビを、技術のソニー復活の象徴とし、反転攻勢の旗印にしたい」とコメント。さらに、井原勝美副社長は「有機ELは次世代テレビとして大きなポテンシャルを秘めたデバイス」と語ることからもそれが伝わってくる。

 年末商戦のテレビ事業の軸足を液晶テレビに置くことを、井原副社長は明確に言及している。液晶テレビがいまの事業をけん引するためのマーケティング施策なのに対して、有機ELのマーケティング施策は、まさに次代に向けた「布石」とみられる。
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