大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>44.KDDI小野寺社長の発言が及ぼす影響は?

2007/04/09 18:44

週刊BCN 2007年04月09日vol.1182掲載

 KDDIの社長定例会見で、小野寺正社長は、「国際競争力の強化」をテーマに掲げた。

 このなかで小野寺社長が示したのは、総務省のモバイルビジネス研究会で議論されている販売奨励金制度の廃止やSIMロック解除に対する、KDDIの見解といっていいだろう。

■制度廃止には慎重な態度

 小野寺社長は、これまでにも、「いまの販売奨励金制度のままでいいとは思わない」としながらも、「この制度によってユーザーは端末を低価格で入手できるからこそ、最新技術を搭載した端末が普及し、新機能を活用した新サービスが活用されるようになった。制度廃止は慎重に議論すべき」と、繰り返し発言してきた。

 今回の会見でも、その視点には変わりはなかった。

 移動体通信事業者3社の営業収益は1.3%増とほぼ横ばいであるのに対して、携帯電話向けコンテンツの売上高は1.4倍となっていることを示しながら、「着うたフルは、この1年間で1.6倍以上に拡大。電子書籍では4.6倍以上の成長を遂げている」とした。さらに「携帯電話による経済波及効果は26兆8000億円。日本のGDPの5%を占める」というデータまで示して見せた。

 そこに、今度は、国際競争力という観点での議論を新たに提示してみせたのである。

 小野寺社長は、携帯電話市場における国際競争力には、(1)モジュール、部材分野での競争力維持、(2)日本の携帯端末メーカーのシェア拡大、(3)日本のメーカーブランドによる携帯端末の展開、(4)日本のサービス・ビジネスモデルの世界展開、(5)日本発の技術を国際標準にする──の5つの観点があるとした。「これらのうち、どこで国際競争力を強化するかによって、国内における施策は空回りすることすらある」と指摘する。

■国際競争の武器は何か

 例えば、日本の企業が高いシェアを持つモジュール、部材においては、販売奨励金によって、先端技術を搭載した端末を国内に普及させることこそが、部品メーカーの国際競争力維持につながる。「現在、携帯電話用の表示装置やセンサーにおける国内部材メーカーのシェアは4割。バッテリーでは7割のシェアを持っているのも、先行した技術の製品が普及する土壌が、日本にあるからだ」と小野寺社長は語る。

 その一方で、日本の携帯端末メーカーのシェア拡大を国際競争力の強化とするのであれば、販売奨励金制度を廃止し、SIMロックを解除し、欧米と同じ競争環境に置くべきともいえよう。

 だが、小野寺社長は、携帯電話メーカーの世界市場シェアは国内全メーカーをあわせても1割程度であること、今後、構成部品がPCのように標準化し、参入障壁が低くなることなどを指摘して、「日本の経済力を維持するためには、部材、モジュールでの強みを維持したほうがいい」と語る。

 モバイルビジネス研究会では、今年夏にも、販売奨励金およびSIMロックについて、ひとつの方向性を出したいとしている。ただし、業界内では、この廃止議論に対して疑問を投げかける声も少なくない。小野寺社長の発言は、この議論の行方にも大きな影響を与えるだろう。
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