大河原克行のニュースの原点
<大河原克行のニュースの原点>32.堅牢ノートPCにこそ生きる日本の技術
2007/01/15 18:44
週刊BCN 2007年01月15日vol.1170掲載
堅牢ノートPCとは、過酷な条件下での利用を想定したPCで、松下電器のTOUGHBOOKを例にとれば、90cmの高さからの落下や毎分10mmの降水量に相当する散水条件、マイナス20度での起動といった悪条件下での利用にも耐える堅牢性を実現している。
その一方で、堅牢性を重視した分だけ、ビジネスモバイル系ノートPCに比べると、2-3倍の重量となる。持ち運んで利用するとの観点では、日本のビジネスユーザーの要求には合致しにくいが、欧米などでは警察、消防署など特定用途において、現場に持ち運んで利用する需要が見込める。
■市場規模はわずか0.2%
だが、あくまでもニッチ市場であることに変わりはない。
松下電器の調べによると、全世界における堅牢PCの市場規模は、2006年度見通しで約50万台。PCの年間総出荷台数が2億3000万台の規模であることと比較すれば、わずか0.2%だ。
ではなぜ、この分野に両社が積極的に乗り出しているのか。
松下電器では、その理由を次のように語る。「オフィス市場へのPC導入は一巡したといえるが、過酷な環境下で使用される堅牢PCの普及は、まだこれからという段階。われわれのビジネスチャンスはここにある」。
一方、NECでも「この分野はまだ一部のメーカーしか参入していない市場だが、今後は参入企業が増えることで市場が活性化すると予測される。成長が見込まれる分野にいち早く参入することに意味がある」とする。
松下電器の場合、10年前からTOUGHBOOKを投入、この分野で実績を積み重ねてきた。Let's noteでの小型・軽量化技術もTOUGHBOOKの製品化に生かされている。
一方、NECではPC-9800シリーズの時代から、産業利用向けのファクトリコンピュータを開発。工場内というPCにとっては過酷な条件下でも、動作する製品を投入してきた。この分野では、実に20年の実績を持っているのである。
■先行組は蓄積ノウハウを強調
松下電器では「今回のTOUGH BOOKは3年ぶりのモデルチェンジだが、これだけ時間がかかったのは防滴技術ひとつをとっても、要素技術から開発することになるため。1年後に他社が同じ仕様のPCを出すことはとても不可能だろう」とみている。
NECも今回の新製品は、2年ぶりのモデルチェンジとなったが、それも同様の理由によるものだ。それだけ堅牢ノートPCには多くのノウハウが詰まっているのである。
現在両社は、参入企業が少ないことを背景として先行者利益を確保している。そして、今後見込まれる市場の拡大期においては、これまでに蓄積したノウハウが他社との差別化要素として大きく影響すると考えている。
もちろん長期戦となるのは明らか。だが、これまでほとんど手つかずだった「現場PC」の市場は、拡大の余地があるのも明らかである。
そして、これこそが、日本のメーカーならではの技術力が生きる分野であることも間違いない。
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