大河原克行のニュースの原点
<大河原克行のニュースの原点>29.白物家電の活況ぶりとPC業界との差
2006/12/18 16:51
週刊BCN 2006年12月18日vol.1167掲載
■“こだわり層”の大量出現
例えば、三菱電機が投入した本炭釜炊飯器は、実売価格で8万円前後という高額な価格設定。炊飯器の売れ筋価格帯が2-3万円というなかで、異例の売れ行きをみせている。
「一日に生産できるのは50台。発売前から作りだめして、半年間で1万台を販売した」(三菱電機)というヒット商品だ。そのほか、冷蔵庫、洗濯乾燥機、エアコン、電子レンジ、掃除機なども高機能製品に注目が集まり、単価が軒並み上昇している。
こうした背景には、いくつかの要素が見逃せない。
ひとつは、買い換え需要の当たり年になっていることだ。
一般的に洗濯機の寿命は平均9年、冷蔵庫は平均10年、エアコンは平均11年といわれる。逆算すると、94年から96年頃に販売された商品が、ちょうど買い換え時期に入ってきた。90年代のこの3年間は、猛暑の連続でエアコンの出荷が急増。94年からの3年間で2356万台ものエアコンが販売されている。また、97年4月からの消費税率5%への引き上げ前の駆け込み需要が顕在化。洗濯機や冷蔵庫なども出荷量が急激に増加した。こうしたかつての旺盛な需要期の買い換えが見込まれるのだ。
また、団塊の世代の大量退職を前に、モノにこだわる需要層の拡大も見逃せない。高度成長期には、「隣の家と同じモノ」を求めていたが、ここ10年は、隣の家とは違うモノを求める層が増加した。
「モノにこだわる消費者が増え、自らのライフスタイルに合ったモノ、あるいはライフスタイルを高めることができる家電製品に注目が集まっている」(日立アプライアンス)という。
これも付加価値型の高機能製品に注目が集まる理由のひとつだ。
■付加価値型商品を作りやすい体制
加えて、電機メーカー各社の大規模な構造改革の成果も要因のひとつといえそうだ。事業部門の壁が取り払われたことで、付加価値型商品が創出されやすい環境ができあがっている。
松下電器産業が先駆けたエアコンのフィルター自動掃除機能は、エアコン事業部門とは交流がなかった掃除機部門の技術を採用したものであり、東芝が発売した洗濯乾燥機は、エアコンで活用したヒートポンプ技術を採用している。
「これまで考えられなかった技術同士を融合することで、前例がない、こだわりの商品が創出できる」(東芝コンシューママーケティング)というわけだ。
白物家電市場は世帯普及率をみるとすでに飽和状態にある。だが、売り場は高機能製品の投入で活況を呈している。1人1台環境への進展など、まだ成長の余地があるといわれるPC業界に元気がないのとは対照的だ。これは、魅力的な製品創出に力を注ぐか否かという、事業部門の姿勢の差といっては言い過ぎか。
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