大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>21.CEATECが世界に向けて果たした役割

2006/10/23 16:51

週刊BCN 2006年10月23日vol.1159掲載

 CEATEC JAPAN 2006が閉幕した。5日間の会期中の来場者は、19万4267人。米国のCES、欧州のIFAと並ぶ家電/ITの展示会と位置づけられる同イベントには、「報道関係者だけでも、25か国以上から取材に駆けつけた」(同展示会事務局)という注目ぶりだった。

■科学番組のような基調講演

 展示会場は、薄型大画面テレビをはじめとするデジタル家電や、携帯電話などが目白押しで、これらの分野で先行する日本のモノづくりの強さをアピールするには絶好の機会だったといえよう。また、電子部品・デバイス&装置ゾーンも、展示の演出は地味ながらも、随所に日本の技術的先進性を見せつけていたことは頼もしく感じられた。

 展示会場は、取材対象としては、もちろん絶好の場なのだが、個人的には今回、基調講演に取材時間を割いてみた。その基調講演のなかでとくに印象的だったのが、初日に登場した東芝の西田厚聰社長だ。

 特筆できるのは、西田社長が講演の中盤以降、ナノテクノロジーを取り上げ、それに多くの時間を費やしたこと。しかも、詳細な技術解説にも触れた内容であった。

 具体的には、東芝が取り組んでいる先端トランジスタ技術、ナノストレージ技術、DMFC(ダイレクト・メタノール型燃料電池)、量子暗号通信技術の4つを紹介。先端トランジスタ技術を例にとれば、「40ナノ世代以降のトランジスタでは、ゲート電極の下にある酸化シリコン絶縁膜が薄くなりすぎ、漏れ電流が発生する。さらに、微細化がすすみ、漏れ電流が増えると、消費電力を高めるとともに、スイッチング動作がきわめて不安定になるという課題もある。しかし、LaAIO3というナノレベルを実現する素材を用いることで、漏れ電流を大幅に抑制でき、低消費電力で、高性能、大容量のメモリの実現ができる」という具合だ。これをパワーポイントの図表を示しながら解説するのだから、科学の教育番組を見ているような錯覚すら覚える。

■技術立国・日本をアピール

 西田氏が社長に就任する前は、PC事業やデジタル家電事業を統括していたことから、何度となく単独取材をしたことがあったが、ここまで技術に触れた話を聞いたのは初めてだった。また、大手電機の社長講演で、これほどまでに技術的要素に触れるのは異例のことだといえよう。

 今回、あえて、西田社長が技術的解説まで交えて講演した背景には、日本のモノづくりの強みを強調する狙いがあったともいえる。

 西田社長は、ほぼ毎年のように米CESの会場に出向いている。その展示会場や基調講演では、米国のIT産業がリビングルームを席巻しようとする動きを、強く感じざるを得ない。とくに、ここ数年は米国の国策といえるほど、その論調が強く感じられる。

 「新たなイノベーションの実現は、現行の技術では限界がある。これを突破するのがナノテクノロジーであり、これこそが日本が得意とする技術だ」と西田社長は強調する。

 基調講演、展示会を通じて、技術立国・日本を海外に対して強く発信できたとしたら、今回のCEATECが果たした意味は大きいはずだ。
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