大河原克行のニュースの原点
<大河原克行のニュースの原点>19.エプソンの新提案に見えるアキレス腱とは?
2006/10/09 16:51
週刊BCN 2006年10月09日vol.1157掲載
それは、最上位機種のPM-T990に搭載されたテレビプリンティング機能である。年末商戦では、「テレプリパ」というキーワードを活用し、この機能を訴えていく考えだ。
「PCに接続して利用する時代を第1世代だとすれば、PCを介さずに利用するのが第2世代。テレビプリンティング機能は、いわば第3世代ともいえるプリンタ事業成長の柱」と、エプソン販売の真道昌良社長は位置づける。
■料理番組のレシピも印刷
テレビプリンティングといっても、テレビ画像をそのまま印刷するわけではない。デジタル放送では、テレビとともにデータも配信することが可能で、これらの情報を簡単に印字できるというものだ。
例えば、番組で紹介された料理のレシピが欲しい場合、テレビのリモコンボタンを押せば、自動的にレシピの情報がプリントアウトされたり、番組からのプレゼントのお知らせの際にも、ボタンを押すだけで宛先などが書かれた応募ハガキがすぐに印字できたりといったことができるようになる。
とはいえ、こうしたサービスが開始されるのは、今年6月に、松下電器産業、ソニー、シャープ、東芝、日立製作所、ソニーコミュニケーションネットワークが共同で設立したテレビポータルサービスが提供するデジタルTVやセットボックスなどが登場してから。これは、来年になってからの話だ。
もちろん、それを待たなくとも、松下電器が2003年5月からスタートした「Tナビ」に対応していることから、松下の薄型テレビ「VIERA」を通じて、テレビプリンティング機能を利用することができる。だが、これも一部のユーザーに限定された用途であり、一般への訴求も足りない。
■大量消費で新たな懸念も
つまり、実際のところ、この機能が年末商戦のキラーコンテンツになるとは言い難いのだ。年末商戦の量販店店頭では、まだ普及前の機能に対して、商品説明の時間を割くことは難しい。それも、年末の切り札と言い切れない要因のひとつだといえる。
実は、この点はエプソンも承知している。最上位機種だけにこの機能を搭載したのは、この機能を知るユーザーだけに販売していく姿勢の現れだといえよう。
しかし、仮に、テレビプリンティングが普及したとしても、エプソンのプリンタ戦略にすべてがプラスになるとは言い切れない。というのも、テレビを見ていて、ボタンを押せばすぐに印刷ができるという仕組みは、これまでのプリンタメーカーが追求してきた写真画質などの高品質化路線とは異なり、大量印刷指向へとシフトすることを意味するからだ。
インクで収益をあげるビジネスモデルにとっては、一見、プラス効果といえるが、一歩間違えば、懸念される非純正インクの占有率を拡大させる温床にもなりかねない。
テレビプリンティングを成功に導くためには、テレビプリンティング=大量消費=低価格の非純正インクの普及という方程式を避けることが、プリンタメーカーの課題となる。
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