大河原克行のニュースの原点
<大河原克行のニュースの原点>16.交流戦で家電各社を迎え撃つキヤノンの勝算
2006/09/18 18:44
週刊BCN 2006年09月18日vol.1154掲載
キヤノンマーケティングジャパンの芦澤光二専務取締役は、このスライドを提示しながら、今年のデジカル一眼レフカメラ市場をプロ野球にたとえる。
「プロ野球はセ・リーグとパ・リーグが交流戦を行うことで、観客動員数が増加した。カメラメーカーだけの戦いではなく、家電メーカーが参入することで、市場は活性化する。デジタル一眼レフカメラ市場における交流戦は大歓迎だ」
■異例の「高シェア獲得」を宣言
一眼レフカメラ市場は、四半世紀前の1980年に、過去最高となる年間128万台の国内出荷を達成したが、その後は縮小の一途をたどり、02年には約50万台にまで減少した。06年予測では、ようやく66万台の規模にまで回復してきたところだ。
振り返れば、コンパクトデジカメ市場が活性化したのは、キヤノン、富士写真フイルム、ニコンなどのカメラ関連メーカーに加えて、カシオ計算機、ソニー、松下電器産業といった家電メーカーが、市場で大暴れしたことが大きく貢献した点として見逃せない。
芦澤専務は、「06年9月から12月の商戦期において、EOS Kiss デジタルXだけで、45%のシェアを獲得したい」と鼻息が荒い。単一機種でここまで高いシェア目標を掲げるのは異例だ。同社がトップシェアを手中に収めているインクジェットプリンタやコンパクトデジカメでも考えられない。
■Kissシリーズは美空ひばり?
EOS Kissは93年に第1号機を投入。その後のデジタル一眼レフへの転換を経て、これまでに出荷した累計出荷台数は1200万台。単一機種でも6割を超えるシェアを獲得した時期もあった。それだけに、Kissシリーズを指して、芦澤専務が「国民的一眼レフ」と鼻を高くするのもうなずける。
「歌手でいえば美空ひばり、小説家でいえば司馬遼太郎」(芦澤専務)と、たとえはやや古いが、Kissが一眼レフ市場で、それだけのブランド力を持ち合わせているのは確かだ。
では、家電メーカーを迎え撃つうえでの課題はなにか。実はそれほど大きな課題は見当たらない。
性能、価格設定、ブランド力、キャンペーン戦略、店員への教育・啓蒙活動など、競合他社と比べても、むしろリードしている面が多い。だからこそ、圧倒的なシェアを獲得しているといえる。
従来のEOS Kiss デジタルNでは、コンパクトデジカメからの買い換え・買い増し比率が48%、30-40代の男女の購入が全体の70%という傾向がある。新製品でも、これらの購入層に向けたマーケティングに力が入る。
だが、家電メーカーも手をこまねいているわけではない。松下電器、ソニーの両首脳が、異口同音に「当社はカメラメーカー」と言い切るように、家電メーカーという意識を捨て、デジタル一眼レフ市場で真っ向から戦う姿勢を見せている。これから、その手立てが少しずつ明らかになるはずだ。それに対してキヤノンはどう応じるのか。交流戦は、外野席からの見物客にとっては大変興味深い。
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