臨界点
シャープ 取締役 ディスプレイ技術開発本部長 水嶋繁光
2006/08/07 18:45
週刊BCN 2006年08月07日vol.1149掲載
デジタル映像の文化をどう支えるか 市場が望むならすべての技術を投入
――最近、液晶テレビメーカーの間で、VA方式かIPS方式かという液晶の動作モードを巡る議論が盛んだが。「確かに10年くらい前までは、動作モードによる特性の違いが大きかった。原理的にVA方式は正面コントラストや表示速度に優れ、IPSは視野角が広いというのが一般的な評価だ。しかし、技術水準が上がった今は、意味のない議論だと思っている。シャープはVA方式をもとに独自のASV液晶を完成させてきたが、他社にしても動作モードの違いが問題にならないレベルまで完成度は高くなっている。そうした些末な比較論よりも、ユーザーが本当に求める機能を追求していくことが大事だろう」
――いま顧客から求められている課題とは。
「世界中の美術館で絵画のデジタルデータ化が進んでいるが、それを完全に再現できるディスプレイは残念ながらまだ存在しない。こうした新しい時代の文化をどう支えていくかが、われわれの課題だ。映像の精細度が高まれば、液晶はもっと大型化できる。今の画面サイズなら、窓から外を眺めている感覚だが、これが65インチになると画面に映る人物が実物大で見えてくる。自分が映像のなかに没入する感覚で、全く違う感性の世界を体験できるようになる」
――高精細のフルハイビジョンについては、通常の視聴ではそれほど違いを体感できないという他社の反論もある。
「例えば送られてくる映像データが600万画素あるのに、表現するのは300万画素で十分だというのは、作り手側の勝手な論理だろう。将来の大型化を考えれば、デジタル映画の2000本ラインの映像までもすべて表現するのがメーカーの役割だ。フルハイビジョンについては37型以上がバランスがいいと思っているが、ユーザーが要望するなら32型でも対応する。技術的に可能なことは余すことなくやりとげたい」
――今年の年末商戦での技術的な争点は。
「望まないにしても価格競争は避けられない。同時により一層の大型化が進む。40インチクラスの液晶が求められるだろう。そうした意味で、年末商戦は40インチ戦争になる。技術的には、大型の液晶テレビを安心して楽しんでもらうためにも、高精細で高いコントラストを、どこまで低消費電力で実現できるかがカギになるはずだ」
――今後、液晶の大型化はどこまで進むと。
「今回、当社では50インチのフルハイビジョンテレビを発売するが、2年後を視野に入れれば65インチまでいくだろう。その頃には65インチでも一般的な価格で提供できるようになる。日本のリビングは狭いといわれるが、2.8から3メートルの距離があれば65インチクラスが理想的なサイズだと思う」
――韓国や中国メーカーの追い上げが激しいが、半導体と同じ道をたどる懸念はないか。
「幸いなことに、半導体と違って液晶は複雑で構成技術要素が非常に多い。そのため、どこまで進んでも技術は成熟するどころか、やるべきことが山ほど出てくる。たとえばカラーフィルターの製造にインクジェットを活用するだけでコストは格段に安くなる。海外にない技術や品質を、海外にない生産技術でつくればいい。きわめてシンプルなことだ。やるべきことをやってきたメーカーが生き残る。これからが本当の競争だ」
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■大画面化でシャープ独走
液晶テレビのベンダー別シェアでは、シャープの独走が続いている。トップシェアを維持しているばかりでなく、今年に入って2位以下との差が一段と広がる傾向にある。1月の同社のシェアは41.3%だったが、5月には44.4%に上昇。さらにワールドカップ商戦を通じて、首位独走に弾みがついた。5月第4週に32型以上の販売比率が液晶テレビ全体の5割を突破したが、こうした大型液晶への需要シフトがシャープのシェアを一段と押し上げる結果になっている。
大型液晶のラインアップ拡大とフルハイビジョン対応の品揃え強化がユーザーの支持を集めた形だ。同社では従来37型以上の全ラインアップをフルハイビジョン対応する計画を打ち出していたが、今回の水嶋取締役の取材では、ユーザーの要望があれば32型でもフルハイビジョン対応を行うと一歩踏み込んだ発言が聞かれた。
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