大河原克行のニュースの原点
<大河原克行のニュースの原点>10.伝わったのか、松下新社長の経営姿勢
2006/07/31 18:44
週刊BCN 2006年07月31日vol.1148掲載
■多元中継もマスコミ踊らず
だが残念ながら、その会見は当初の期待とは裏腹に報道陣をがっかりさせた。それは、その後の各社の扱いを見ても明らか。会見内容に触れたテレビはわずか数局。新聞の扱いもそれほど大きなものではなかった。
なぜ、マスコミ各社は大坪社長会見の扱いを控えたのだろうか。それにはいくつかの理由がある。ひとつは、新聞各紙が扱いやすいような数字を打ち出した方針や新たな指針が出なかったことだ。
大坪社長は今年2月の社長交代会見の際に、グローバルエクセレントカンパニーへの脱皮と、2010年には営業利益率10%を目指すことを示した。当然、この目標に向けた具体策が公表されるであろうと期待した報道関係者は少なくなかった。だが、10%という数字すら大坪社長は自ら口にしなかった。記者からの質問を受けて初めて「営業利益率10%という目標はひとときも忘れたことがない」と語ったが、具体的な施策については「来年1月の経営方針説明会で明らかにする」と、具体策になんら言及しなかったのである。
確かに、前任の中村邦夫氏(現会長)が、「破壊と創造」を打ち出したのは就任してから5か月後の00年11月。しかも具体策については、01年1月の経営方針説明会まで待たなければならなかったことを考えると、大坪社長の「来年1月」は、いわば慣例に沿ったものといえる。
1月の経営方針説明会は、松下幸之助時代から続く事実上の元日。そこに焦点をあわせることは松下電器側にとってみれば当然ともいえる。しかし、マスコミ各社は、それを待てないという姿勢が明白であった。
■届かない大坪社長の「情熱」
もうひとつ、マスコミの扱いが小さかった理由に大坪社長のキャラクターが明確に伝わらなかったことがあげられる。
「実直」「誠実」という印象が先行する大坪社長だが、モノづくりへのこだわりや情熱は並大抵ではない。これが会見からは伝わってこなかったことが残念だ。
過去に何度となく、大坪社長に取材をした立場からみると、現場主義の徹底ぶりはもっと伝わってよかった。中村前社長の「技術立社」を大坪社長は「モノづくり立社」に進化させて開発、製造現場だけがモノづくりの場ではないことを訴えた。この大きな進化を捉えることができた記者がどれだけいるかも疑問だ。この点でも、大坪社長の本意がストレートに伝わらなかったことが残念でならない。さらに、氏がパナソニックAVCネットワーク社社長を務めていた際に、勝負すべきタイミングに製品計画を1年前倒しして機能、価格で競合他社を一気に突き放す「攻め」の経営を仕掛けるトップであることも、今回は伝わってこなかった。
これが「爪を隠す」という狙いがあるのならば話は別なのだが、そうする理由は見当たらない。
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