臨界点

カシオ計算機 取締役開発本部 QV統轄部長 高島 進

2006/07/17 18:45

週刊BCN 2006年07月17日vol.1146掲載

 カシオ計算機がデジタルカメラでシェアを急伸させている。原動力は、5月26日に発売した1010万画素のEXILIM(エクシリム)ZOOM EX-Z1000だ。発売と同時に単独モデルでトップシェアを獲得するとともに、トータル台数でもトップのキヤノンに迫る勢いだ。デジタル一眼レフに対抗するという明確な意志を持った同機の登場で、デジカメ業界は新たな転機を迎える可能性が高まっている。 石井成樹 取材/文 馬場磨貴 写真

デジタル一眼レフには手を出さない 代わりにコンパクトに1000万画素を積む

 ――1000万画素、絶好調の立ち上がりだが。

 「おかげさまで非常に順調だが、販売店の皆様には品薄状態が続いたことをまずお詫びしたい。それなりに作り込んでいたが、世界、特にアメリカでも好評なので、シェアを取りにいこうかと──。7月は国内を優先、もう少し潤沢にお届けするので、よろしくお願いします」

 ――いつ、どんないきさつで開発することにしたのか。

 「開発に着手したのは1年前。コンパクトカメラの画素競争は終わったと一般的には信じられていたから、もちろん社内でも侃々諤々の議論をしながら決断した。

 1000万画素は、デジタル一眼レフへの搭載が始まっていたから、一眼レフをどうするか、1000万画素をどうするかは表裏のテーマだった。私自身は、当社は一眼レフには出るべきでないと考えていた。一眼レフの世界は、レンズ資産の戦いだからだ。あの膨大なレンズ資産を考えると、うちがキヤノンさん、ニコンさんに勝つためには莫大な投資をしなければならない。両社以外の老舗のカメラメーカーと組んでやるという選択肢もあることはあるが、この場合でも、投資はまず回収できないだろう」

 ――コンパクトカメラに1000万画素を積んだのは、一眼レフ対策だった、と。

 「まあ、そういうことだ。いまのデジタル一眼レフというのは、銀塩一眼レフを置き換えるにはどうしたらよいかという点を最大のテーマにしているなというのが、私の感想だ。せっかくデジタルの技術を手にしているのに、銀塩からの置き換えだけを考える、これって面白くないな、つけ入るチャンスはあるなと──」

 ――具体的にはどんなことを意識して差別化を図ったのか。

 「コンパクトの良さは手軽に、気軽にどこでも簡単に撮影できるという点にあるが、そのうえに1010万画素によって画質を格段に高めることができた。いろいろな特徴は持っているが、コンパクトでありながらいままでとはレベルの違った写真が撮れる、この分かりやすさで訴えていく。特徴をひとつだけあげるなら、液晶サイズを大きくした。2.8型のワイドサイズにして、操作手順など非常に分かりやすく表示するようにしたことだ」

 ――この価格で儲かるのか。

 「5万円を切って売れるようにしようというのは、最初からの目標だ。当面利益は厳しいが、量産が進めば取り返せるだろう」

 ――他社の反撃をどう見ているか。

 「デジタル一眼をやっているところは、うかつにはコンパクトに1000万画素は積めないだろう。そこはつけ目のひとつと考えている」

 ――今年、トップシェアはとれそうか。

 「ぜひそうしたい」

 ――デジカメはそろそろ淘汰期に入ると思うが、生き残る決め手は。

 「分かりやすく差別化できる商品を開発すること、生産までのリードタイムを短くすること、この二つだ」

DATA FILE
■キヤノンとのトップ争いを演じる

 デジタル一眼レフはやらない、その代わり、コンパクトカメラに1000万画素を積むことで、一眼レフに流れるユーザーを引きとめる──コンセプトは実に明快だ。

 一方、ソニーと松下電器産業は、老舗カメラメーカーと組むことでデジタル一眼レフに進出。デジタルカメラ市場の将来を左右する動きが5月から6月にかけて相次いで表面化した。どちらの選択が正解か。結論が出るのに数年はかからないかもしれない。

 BCNランキングでシェア推移を見ると、カシオの場合、同機発売前のメーカー別シェアは13─15%だったが、現在は20%前後でキヤノンとトップ争いを演じている。

 カシオが「乱戦に強い」のは電卓戦争を勝ち残って以来の伝統だが、高島取締役は見事にその伝統を引き継いでいるようにみえる。

  • 1