大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>8.株主の指摘に慌てたドコモのMNP対策

2006/07/17 18:44

週刊BCN 2006年07月17日vol.1146掲載

 NTTドコモの株主総会の会場で、一人の女性株主が発言した。 「先ほどから話を聞いていますと、経営陣はあまりにもナンバーポータビリティの影響を楽観視しすぎていませんか」

 議長席に座った中村維夫社長の顔色がサッと変わった。

■「影響は軽微」発言に株主反発

 総会の冒頭、株主からの質問に対する一括回答として、石川國雄副社長は、ナンバーポータビリティ(MNP)に対して、次のような説明を行った。

 「過去のデータから見ると、他の事業者からの転出/転入は、年間約200-300万契約。ナンバーポータビリティ制度の実施当初は、一時的に、これが2-3割程度増加すると見ている。だが、他の事業者に変更すると、これまで使っていたメールアドレスが変わってしまうこと、長期割引特典が受けられなくなることなど、中期的には影響は収束していくと考えている」

 MNP制度の影響に関する各種調査で、最も流出が激しいのがドコモだとする結果が各方面から出ている。

 だが、こうした調査結果に対しても、大田賢嗣取締役執行役員は、「ポイントの継続や、メールアドレスの継続利用を考えれば、単純に移行することだけを捉えた、これらのアンケート結果はそのまま当てはまらないと考えている」と、石川副社長の回答を繰り返すだけだった。

 冒頭の女性株主の発言は、こうした役員の相次ぐ発言に対して、ドコモの危機感の無さを指摘したものだった。

 ドコモの株主総会から3日後。ソフトバンクの株主総会は、ドコモの株主総会の雰囲気とは打って変わったものだった。そこには、強気の姿勢で語る孫正義社長の姿があったからだ。「MNPが開始される10月に向けて、万全の体制で臨みたい。この戦いには勝たなくてはならない。いや、絶対に結果を出してみせる」とのコメントに、会場からは思わず拍手が出た。それだけの勢いが、その言葉にはあった。

 一方、KDDIの株主総会は、直前に発覚したDIONの個人情報漏えいに話題が集中したことで、MNPに関してはどうしても後回しの感があったのは否めないが、ここ数年、最も周到な準備をしてきたのがauであるのは周知の通り。株主総会でも両角寛文取締役執行役員常務が「シェア拡大の千載一隅のチャンス。年間純増数400万のうち、340万をauが取る」と宣言。同社にもMNP制度に対する強気の雰囲気が漂う。

■守り一辺倒で競争に勝てるか

 株主の質問に慌てたドコモの中村社長は、「ドコモは過去2年間にわたって、顧客の視点にたって、料金改定や魅力的な端末の開発、新サービスの提供に取り組んできた。当社の場合、他社に比べてシェアが高いため、同じ解約率でも実際に解約される件数が2倍になるということも認識している。新しい端末や新しいサービスを提供していくことで、これを乗り越えたい」と回答した。

 しかし、ドコモの発言は、あくまでも守りに終始している。攻めの一手が見当たらないのだ。このままでは、au、ボーダフォン(10月からソフトバンク)を迎え撃つには不十分だとはいえまいか。
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