アドビシステムズが自社製品の連携強化で新しいプラットフォーム市場を創造しようとしている。文書管理や画像処理、グラフィックスなどのソフトを組み合わせることに加え、買収したマクロメディアのウェブコンテンツ作成ツール「FLASH」の融合でコミュニケーションをベースにユーザーや企業、情報などがつながる「エンゲージメントプラットフォーム」を浸透させる方針だ。ギャレット・イルグ社長は、「当社が掲げるコンセプトはユビキタス社会の確立を早める」と言い切る。 佐相彰彦　取材／文 大澤邦彦　写真

自社製品の連携強化で、新プラットフォーム市場を創造

　――昨年度（2005年12月期）の業績は好調だったようだが。

　「売上高は2ケタ成長を果たした。日本の景気回復にともない、個人消費が活発化している。その追い風を受けて、パソコンソフトの購入意欲も強まっていることが大きな要因だ。今年度も、業績増が期待できる。昨年度を上回る2ケタ成長を達成させる」

　――ビジネスを拡大させるポイントは。

　「ユーザーニーズに対応したソフト開発を追求することだ。市場は、使いやすく高性能な製品を求めている。最近では、会社員を中心にデジタルコンテンツを活用してプレゼンテーションを行いたいといった声も多い。そうしたニーズに応えることで、ソフトの販売量を増やせると確信している。ブロードバンド環境が整ってきて、パソコンやテレビ、携帯電話などデジタル機器の融合が進んできた。こうした変化のなかで、クリエイティブ分野ではオフィスなどの限られた環境に縛られずに業務を効率化したいというニーズが高まっている。コンシューマ市場でも、『いつでも、どこでも』をコンセプトとしたサービスの実現を意識している。時代の要請に応えるため、当社の製品を連携させていく」

　――具体的には。

　「（買収した）マクロメディア製品との連携強化だ。マクロメディアのウェブコンテンツ作成ツール『FLASH』により、パソコンでも携帯電話でもPDF閲覧が可能なサービスを提供できる基盤が整った。これをベースとして、携帯電話のサービスを充実させるためにメーカーやキャリアとの協業を進めている。アライアンスの幅を広げていくことで新しいサービスを創造することが狙いだ。当社では、コミュニケーションをベースに個人ユーザーや企業、情報をつなげるコンセプトとして『エンゲージメントプラットフォーム』を掲げている。文書管理、画像処理、グラフィックスなどの分野でのソフト提供に加え、ユビキタス環境を整備することで新しいプラットフォーム市場の確立に力を注いでいく。新しい市場で確固たる地位を築き、プラットフォーム市場全体でもトップシェアの獲得を目指す」

　――ウェブサービスは強化していくのか。

　「ユーザーが複数の端末でサービスを受けられる環境をつくるためには、ウェブサービスの強化が欠かせないと考えている。また、ネットショップを通じたソフトのダウンロード販売も増えるのではないかとみている」

　――ソフトのダウンロード販売が増加することは、パッケージビジネスに影響しないのか。

　「ユーザーの購入の仕方は多様化しており、さまざまな購買行動に対応する必要がある。ダウンロード販売もその選択肢のひとつだ。ウェブサービスが活発になったからといってパッケージ販売がなくなるわけではない。なんといっても、パッケージは、ユーザーが手に取ったり、ショップでのデモを通じて実際に体験できるといった強みがある。その強みを生かすため、パソコンショップやディストリビュータなど販売代理店とのパートナーシップをさらに深めていく。新しいコンセプトの製品を市場に投入する際はショップでのキャンペーンを徹底させて、パートナーとともにコンシューマ向けソフト市場を深耕していくつもりだ」

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■半数に迫るシェアで他社を圧倒

　アドビシステムズは、画像処理ソフト市場で40％以上のシェアを確保している。5月8－14日のメーカー別販売本数シェアでは42.5％を獲得し、他社を圧倒している。

　トップ君臨に貢献している製品は、「アドビ・フォトショップ・エレメンツ」シリーズ。製品別本数シェアの上位10機種以内に、ウィンドウズ版やMac版、アップグレード版など5機種がランクインしている。昨年10月発売の「バージョン4.0ウィンドウズ版」は、本数シェアで18.9％のシェアでトップをキープしている。

　同社の製品は従来、クリエイターなどプロユーザーが購入する傾向が強かった。しかし、同シリーズはパソコン初級者が対象で簡単操作を売りにしている。ギャレット・イルグ社長は、「このシリーズがユーザー層の拡大に貢献している」とみている。