大河原克行のニュースの原点

<大河原克行のニュースの原点>1.内製率向上で黒字化狙う日立のデジタル家電

2006/05/29 18:44

週刊BCN 2006年05月29日vol.1139掲載

 デジタル家電市場における勝利の方程式は、内製率の高さだといわれる。パソコンが標準化技術を採用した水平分散型のビジネスモデルを前提としているのに対して、デジタル家電の勝敗は垂直連携がものをいう。自ら研究開発し設備投資を行った技術や部品を生かしたものづくりが、製品そのものの差別化と利益確保につながる。パソコンとは対極となる垂直統合型のビジネスモデルがベースとなる。

 例えば、大画面テレビの本命といわれるプラズマテレビ。そのパネル生産は、ひと握りのメーカーに限定され、その数は全世界規模でみても片手に集約されている。

■プラズマTVでは61%を内製化

 日立製作所ユビキタスプラットフォームグループグループ長&CEOである江幡誠執行役常務は、「ブラウン管テレビは、部品を集めれば製品ができるほどコモディティ化した。だが、デジタル家電では、その構造が成り立たない。自ら開発、生産できるところだけが生き残る」と断言する。

 同社は、これまで各社があまり明確にしてこなかった内製率を公にしている。プラズマテレビで61%、液晶テレビで70%。そして、コモディティ化が進みつつあるDVDレコーダーにおいても、IBMから買収したHDD事業の効果もあり46%の内製率に達している。

 営業利益率5%を突破した松下電器産業のプラズマも6割以上の内製率。赤字脱却を目指すソニーの液晶テレビが、つい最近まで2割程度の内製率にとどまっていたことでも、内製率の高さが収益確保の近道であることが分かる。

 「そのためには、ガラス、カラーフィルター、回路、電源といった周辺装置ベンダーも巻き込み、資本提携や深い業務提携によって、事実上のグループ/パートナー内製率を高める必要がある。日立の総合電機という特徴がいよいよ生かせる時代に入ってきた」と江幡執行役常務は胸を張る。

■年間240万台体制で黒字化へ

 同社は、こうしたグループ/パートナーの内製率を高めることで、より価格競争力を持った液晶テレビを今年夏以降に投入する予定だ。さらに、プラズマテレビでも、今年10月に稼働する富士通日立プラズマディスプレイの宮崎三番館によって、年間240万台(42インチ換算)の生産体制を固め、より競争力の高い製品ラインへと転換させる。

 とはいえ、同社の液晶パネル、薄型テレビ(プラズマ/液晶)、HDDの3事業は依然赤字のまま。4月に新社長に就任した古川一夫氏は、「2006年度後半に、この3事業を黒字化するのが最大の課題」と宣言する。黒字化のシナリオの鍵を握るのは、「規模」と、それを生かす「海外戦略」だ。

 規模に関しては、プラズマを例にとれば三番館の稼働によって展望が開けるという。「年間240万台規模になれば、黒字化の目処がつく」と江幡執行役常務は言い切る。さらに、07年夏には、約1年前倒しで年間360万台の体制に拡張し、コスト競争力を高める。

 一方、海外戦略については、販売投資を加速させ、ブランド認知の段階から手をつける。これは長期戦になりそうだ。だが、規模の追求と海外戦略は国産メーカーにとって共通の課題ともいえ、各社の悩みどころともいえる。
  • 1