店頭流通

もうショールームは不要? デルのワゴンセールが話題に

2006/04/10 18:45

週刊BCN 2006年04月10日vol.1133掲載

【サンフランシスコ発】 デルが新しい販売方法を模索している。これまでのオンライン直販に加えて、ワゴンセールの販売方式を模索しているのである。アメリカの大規模なショッピングモール内には、「アイランド」と呼ばれるワゴン型のセールスブースが多く存在している。既設店舗に比べ参入時の資金的負担が軽く、通常はアクセサリーやTシャツ、野球帽などの簡易衣料や携帯電話、飲料などの販売に利用されるケースが多い。しかし最近になってデルが自社製品をこのワゴン方式で販売し始め、話題になっている。

 デルは、PCの直販で急成長した会社である。自社のショールームなどは持たず、すべての製品を顧客からのオーダーによって製造し直接届けることで、大幅なコスト削減と納期の短縮を実現した。しかしここ数年は、サムスンやエイサー、レノボなどアジアの新興勢力への対抗策や、伸び悩むPC事業に代わる柱を模索するために、液晶ディスプレイなど家電や周辺機器分野への注力が目立ってきていた。

 これらの新世代家電ともいうべき商品群は、幅広い購買層にアピールするため、いかに露出度を高められるかがセールスの重要なカギになる。PCのようにスペックや価格だけで商品価値を訴えるだけでは、新規ユーザーへの浸透は難しい。

 そこで同社がこれまでにない試みとして打ち出してきたのが、ショッピングモールでのワゴンセールという思い切ったコンシューマ重視型の戦略だ。この種の店舗は、デル・ダイレクトストアという名称で、すでに米国で140店舗が展開されている。

 そのひとつ、ニューヨークのウエストベリーにある大型ショッピングモールを訪れた。周辺には航空産業のダグラスなどの企業があり、アッパーミドルの比較的生活レベルの高い住民が多い。

 デルのワゴンスペースでは、数人の販売員が積極的に商品説明をしていた。ワゴンには大小さまざまの液晶ディスプレイが並び、映画やゲーム画面を賑やかに再生している。

 他のPCメーカーは、まだデルと同じようなワゴンセールには参入していない。しかし取材したデルのワゴンの横にはいつの間にかノキアの簡易ブースが設置されており、最新鋭の携帯電話や新しいモバイルサービスのプレゼンテーションに躍起だった。いまやIT機器といえども特別な存在ではなく、他の家電と同様のコンシューマ製品であることを如実に示す光景といえそうだ。

 ワゴンセールという手法は、エンドユーザーに直接コンタクトするというデルの従来からの方針にかなった戦術ともいえるし、まったく相反するもののようにも見える。この方式の成否に関して、デルも対抗する各社も、まだ明確なコメントを発表していない。

 しかしアップルは主要なモールにはアップルストアを展開し、サムスンやソニーも独自でショールームを展開している。また、デルがワゴンセールを行っているモールには、必ず大手の家電チェーンも隣接していることから、ショッピングモールがデジタル家電の重要な販売拠点となることは間違いないだろう。

 現時点では各社とも、取りあえずはデルのお手並み拝見といったところではないだろうか。(田中秀憲(ジャーナリスト))
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