臨界点

トレンドマイクロ 日本代表 大三川 彰彦

2006/02/27 18:45

週刊BCN 2006年02月27日vol.1127掲載

 トレンドマイクロ(エバ・チェン社長)は一般消費者向け市場で新施策を打った。2月10日、スパイウェア対策に特化したツール「スパイバスター2006」をリリースした。他社が豊富なラインアップを揃えているのに対し、トレンドは一貫して「ウイルスバスター」に機能を集約。1つのプロダクトだけで勝負してきた。それにもかかわらず、戦略転換した理由は何なのか。大三川彰彦日本代表は、「市場を広げるための起爆剤」とスパイバスターを位置づけ、中核商品ウイルスバスターの販売にも弾みがつくとみる。 木村剛士/文 馬場磨貴/写真

スパイバスターは市場を広げる起爆剤 既存商品との相乗効果を狙う

 ――2005年は03年、04年に比べ、セキュリティソフト市場の伸びが鈍化した。飽和感はないのか。

 「ない。確かに03年、04年のウイルスバスターの販売本数は、前年度比50%以上の伸びを示したのに対し、昨年は十数%増にとどまった。ただ、それは昨年が03年、04年に比べ大きなアウトブレークが少なかっただけ。伸び率が低い理由が、一般消費者のほとんどにセキュリティソフトが普及したためとは考えにくい。開拓する余地は十分にある」


 ――昨年4月に、定義ファイルの不具合を引き起こした。伸び率鈍化の理由の1つではないのか。

 「それは違う。セキュリティソフトの更新率は、事故前よりも上がっている。トラブル対応を迅速に進めたことが、顧客や販売代理店に評価された証だろう。この事故を教訓として、品質向上のために何をしたらよいかや、万一のトラブルに備えたサポート体制の在り方など多くを学んだ。顧客や代理店に多大な迷惑をかけてしまったが、その分、あらゆる面で当社の力は増した」

 ――新戦略として、スパイウェア対策に特化したソフト「スパイバスター」を2月10日に投入した。一般消費者向けソフトではウイルスバスター以外の初めての製品となる。

 「スパイウェアに対する関心は非常に高い。当社への問い合わせのうち、半分以上がスパイウェアに対する質問だ。被害が金銭におよぶため、消費者も敏感になっている。ニーズを強く感じる」

 ――複数の機能をすべてウイルスバスターに集約し、1つのプロダクトで、複数のラインアップを揃える他社と競ってきた。スパイウェアだけ単体ツールとしてリリースしたのはなぜか。

 「単体機能でも十分売れる自信があるからだ。それだけスパイウェア対策のニーズは強い。発売前から、販売代理店へのヒアリングなど市場調査を十分に行っており、その結果から判断している」

 ――ウイルスバスターにもスパイウェア対策機能はあるが。

 「確かに、ウイルスバスターでもスパイウェア対策は十分施せる。ただ、スパイウェアは専門的な対策が必要になる分野。ウイルスバスターがインターネット上の脅威から広範囲に守れる製品であるのに対し、スパイバスターはスパイウェアに限定し深く対策ができる。昨年スパイウェア対策技術を持つ米インターミュートを買収し、この会社の技術を活用している。ウイルスバスターにはない高度なスパイウェア対策機能を備えている」

 ――スパイバスターを投入したことで、ウイルスバスターの販売が落ちる心配はないのか。

 「その心配はない。むしろ、ウイルスバスターを拡販する起爆剤になるだろう。スパイウェア対策をしたいからまずはスパイバスターを購入し、その後より広範囲なセキュリティ対策をするため、ウイルスバスターを購入するという好循環が生まれる。ただ、消費者には混乱を与えないように、販売店の協力も得てしっかりと両製品の違いを説明していく」

 ――05年の販売本数シェアでは、ライバルのシマンテックに約20ポイントの差をつけられた。今年はシェア何%を獲りにいくか。

 「昨年に比べ10ポイントは上昇させる。ただ、シェアアップに執着するのではなく、市場を広げることを優先したい。それが、シェアの向上にも結びつく」

DATA FILE
■シェア50%以上を記録

 図では、セキュリティソフトの直近週次データ(2月13-19日)を元に、スパイウェア対策専門ソフトの販売本数を抽出し、メーカー別で販売本数シェアを表した。トレンドマイクロが早くも首位に立った。

 トレンドマイクロが「スパイバスター2006」の販売を開始したのは2月10日。発売日から好調で、13-19日の1週間では販売本数シェア55.9%を獲得。2位のジャングルに43.7ポイントの差をつけ、早くもスパイウェア対策専門ソフト市場で確固たる地位を築いている。

 総合セキュリティソフトの大手メーカーが市場参入したことでスパイウェアの知名度が上がり、今後は市場が広がり他社製ソフトの販売が伸びる可能性も十分に考えられる。未成熟な市場だけに、シェア争いだけでなく市場規模がどこまで広がるかも見逃せない。

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