臨界点

エプソン販売 常務取締役コンシューマ事業部長 清水久司

2005/12/12 18:45

週刊BCN 2005年12月12日vol.1117掲載

 「今年は実り多い年だった」と語るのはエプソン販売(真道昌良社長)の清水久司常務である。インクジェットプリンタなど店頭ルート向け商品を担当するコンシューマ事業部の事業部長を務める。「インクジェットプリンタは台数で対前年比107%は堅い。年末商戦次第で110%まで行くかも知れない」と明るい表情を見せる。 石井成樹/文 ミワタダシ/写真

インクジェットプリンタ ノンPC路線認知され107%は堅い

 ――主力のインクジェットプリンタの最新動向は。

 「インクジェットプリンタは、パソコンの周辺機器として市場を確立したが、普及率の高まりにつれて2000年頃から成熟期に入り、台数が前年割れを示す年が数年続いた。新市場を開拓するためには、書斎におかれている商品から居間で使われる商品に脱皮しなければならない、というのが我々の思いだった。そのためにはノンパソコンが不可欠であり、一つの切り口としてデジカメの写真をきれいに、簡単に打ち出す方向を模索してきた。昨年後半からこの路線が認知され、対前年比で相当の伸びを示すようになり、今年も好調だった。我々は〝おうちプリント〟と呼んでいるが、この路線がユーザーに完全に支持された」


 ――今年の仕掛けはずいぶん早く、9月22日には年末商戦向け3ラインの商品を一挙に発表したが、どのモデルが好調か。

 「今年は、複合機である『マルチフォトカラリオ』4モデル、『カラリオダイレクトプリンタ』4モデル、それに写真専用のダイレクトプリンタ『カラリオミー』1モデル、計9モデルで年末商戦に対応している。このなかで絶好調なのは、マルチフォトカラリオの『PM-A890』だ。ものが足りず、増産に増産を続けている。複合機能は外し、パソコンを経由せず写真をダイレクトプリントできるようにしたカラリオダイレクトも最上位のPM-D800が好評で、予想以上に健闘している。心強いのは、写真専用のカラリオミーだ。まだ市場規模は小さいが、伸び率は2.5倍のペースを維持しており、今年は40万台規模の市場になった。当社だけで30万台は堅い情勢で、この勢いはしばらく続くはずだ」

 ――マルチフォトプリンタはどのような点が評価されているのか。

 「最新技術の『エプソンカラー』が好評だ。写真データから人物の顔をプリンタが自動判別、好ましい肌の色に自動補正してプリントするという機能だが、これまでカメラ店に持ち込まなければ不可能だったことが、家庭で、しかもプリンタ任せで可能になった。年末商戦ではもう一つ、『手書き合成機能』も正面に出して訴えていく。合成シートに写真を打ち出すと、下地に写っているので、これを見ながら文字やイラストを書き込み、スキャンして読み込み、写真プリントすると、手書き文字と写真が合成されて出てくる。オリジナルで手作り感のある年賀状が簡単にできる」

 ――その他の商品で目立った動きは。

 「DVD一体型プロジェクター『dreamio(ドリーミオ)EMP-TWD1』が好調だ。DVDとスピーカーを一体化させ、本当のホームシアターを楽しんでもらおうということで出した製品だが、ハイアマチュアの方々から高く評価されている。市場規模は、年間6-7万台程度とまだ小さいが、薄型テレビとは競合せずに全く新しいマーケットが開けるめどがついた」

 ――来年の戦略を簡潔に。

「〝新たな使い方の提案〟に力を入れていく。家族全員が楽しめるような提案をきめ細かく行っていく。例えば、米国ではスクラップブッキングがはやっている。日本にも波及しつつあるので、店頭でのデモンストレーションなどを通じてこうした事例を積極的に紹介していくつもりだ」

DATA FILE
■エプソン、キヤノンの寡占化進む

 インクジェットプリンタ業界は、成熟化と寡占化が同時進行で進んできた。

 グラフは、BCNランキングによるインクジェットプリンタと複合機を合わせた直近の週次台数データ(11月21-27日)だが、エプソンが46.7%、キヤノンが43.2%で、合計シェアは89.9%になる。寡占化は行き着くところまで行き着いたと言える。

 昨年から市場拡大が続いているのは複合機である。インクジェットと複合機を合わせた市場規模の中で、複合機の比率は台数で59%、金額で66%を占める。エプソンはこの複合機で先行、台数シェアは48.7%になる。キヤノンが猛烈に追い上げているが、40.9%だ。単能機のインクジェットは、キヤノン46.6%、エプソン43.8%と、キヤノンがトップになったが、市場規模の大きい複合機市場を開拓したことがエプソンの強みになっている。

  • 1