臨界点
富士通 経営執行役 パーソナルビジネス本部長 山本正己
2005/11/28 18:45
週刊BCN 2005年11月28日vol.1115掲載
10%台の成長期へ、キーワードは「地上波デジタル」
――年末商戦の立ち上がりは。「2004年が悪すぎたため、その反動もあって堅調だ。この勢いは年末商戦まで続く。秋商戦以降、コンシューマ向けのパソコン市場は前年比110%強の成長力を持っている。富士通は、今年前半は前年比100%強だったが、後半から110%以上で伸びている状況だ」
――低迷は脱したのか。
「国産ベンダーが手を取り合って、パソコンのAV(音響・映像)化を推進してきたことで、ようやく買い替え需要を喚起し始めた。06年は、ウィンドウズの新バージョン『ビスタ』も登場する。前年比10%前後の伸び率を持続できるはずだ。この先何が起こるか分からないという不確定要素はあるにしても、現段階では成長段階に入ったとみていい」
――BCNランキングの直近データでは、首位NECとの差が1ポイント未満という大接戦だ。
「夏商戦を含め9月まではNECに若干先行されたが、秋冬商戦では製品力も高まり、プロモーションに力を入れたことで挽回してきた。だが、伸びているというより、〝富士通本来の位置に戻った〟という認識だ。しかし、闇雲にシェアだけを追求するつもりはない。シェア25%前後が当社のポジションだと考えている。シェアよりも(しっかりと利益を出す)健全なビジネスを重視していく」
――製品開発でどこに力を注ぐ。
「地上波デジタル放送対応だ。地上波デジタルが本格的に普及するのは来年後半だが、その前に高画質化技術など差別化要素となるテクノロジーをしっかりと育てておきたい。地上波デジタルへの対応は、06-07年にかけてデスクトップは100%、パソコン全体でも約半分になるだろう。ノートは、スペック的な制約で地上波デジタルへの対応機種が限定されるが、ハイエンドのノートについては来年早々にも地上波デジタル対応モデルを投入する。今は、種を植えて水をまいている準備期間だ。本格普及する来年に一気に花を咲かせる」
――夏商戦で投入した32インチの大画面液晶搭載モデルの反応は。
「商戦ごとに1万台強の販売実績がある。正直に言えば2万台は売りたかったが、ニーズの強さは実感できた。好調の要因として、購入者層の広がりがあげられる。相対的に価格が高いため、40-50歳代の富裕層が中心顧客だが、1人暮らしの20-30歳代が購入するケースも増えている。テレビとパソコンの機能を、大画面液晶搭載パソコンに集約したいというニーズが出始めている」
――テレビとの競合は。
「大きな意味では競合するかもしれないが、共存するものと考える。家族が集まるリビングルームには、やはり40-50インチの大画面薄型テレビが最適だろう。しかし、当社が大画面液晶モデルで狙うのは、リビングルームではない。個人の部屋に1人ひとりが持っているテレビをAVパソコンに置き換えていく。富士通が狙うのはこの分野であり、大型テレビとの棲み分けは十分可能だ」
――「ビスタ」で買い控えの心配は。
「確かに『ビスタ』が登場するまでの前半戦は不安だが、購入後にOSをバージョンアップできる『Ready ビスタ』があれば大丈夫だろう。XPの時も買い控えは起きなかった。むしろ市場の拡大に目を向けていくべきだろう」
DATA FILE
■NECとの差は1ポイント未満に急接近
BCNランキングの直近週次データ(11月7-13日)によると、富士通の台数シェアはデスクトップPC部門で20.5%、ノートPC部門で21.0%。ともに首位を守るNECとの差はデスクトップPCで0.7ポイント、ノートPCで1.1ポイントとなっており、パソコン全体での差は0.9ポイントとNECに急接近している状況にある。
製品別ランキングで上位10機種のうち、富士通製品は、デスクトップ、ノートともに3モデルがランクインしている。
山本経営執行役は、この秋冬モデルで高機能モデルやモバイルPCに力を入れてきたという。結果的に売れているのは、値頃感のあるスタンダードモデルだが、多種多様な製品を揃えていることがブランド力の向上につながり、販売台数増加に結びついているとみている。
- 1