店頭流通

米音楽配信サービスにネットショップ最大手参入か アップルの独走に“待った”

2005/10/31 16:51

週刊BCN 2005年10月31日vol.1111掲載

 米アマゾンが音楽ファイルのダウンロード販売へ進出するという。アップルコンピュータの「アイチューンズミュージックストア(iTMS)」が席巻する市場は現在も急速に成長し続けており、違法サイトの淘汰さえ引き起こすほどの隆盛ぶりだ。ネット通販最大手の音楽配信業界への進出は、何らかの変化を引き起こすのだろうか。

 オンラインショップの大手、米アマゾンが音楽ファイルの配信を始めるとの見方が強まっている。一説によればこのサービスの開始は2005年第4四半期(05年10-12月期)とされ、米国で1年のうち最も購買が増える感謝祭からクリスマス・年末年始にかけての商戦に間に合わせるよう計画が進められているという。

 同社はすでにこの夏、音楽ファイル配信事業のために各音楽レーベルとの交渉を行う人材を自社サイト内で募集している。この求人への問い合わせは非常に多かったとされるが、同社の広報は個人情報の守秘義務として口を閉ざし、また求人の背景についても一切のコメントを避けている。

 音楽CDの販売においては、アマゾンが有力な販売拠点の1つであることは音楽関係者の間では良く知られている。しかし、近年下降傾向にある音楽CDの販売に代わる新たな商品を必要としていることも周知の事実だった。

 現在、オンラインでの音楽ファイルのダウンロード販売に関しては、iTMSが市場を席巻し続けている。すでに日本をはじめ海外でのサービスも開始され、扱う楽曲の数も販売数も一頭地を抜いている。他にも中小を含め数多くのサイトが乱立するこの分野だが、結果としてiTMSだけが“我が世の春”を謳歌し続けている。もっとも、アマゾンの参入は、後発組としては大手だが、あまりにも一極化した市場への参入で無謀であるとの見方が主流だ。

 アマゾンにとって、新たな市場での競争相手はiTMSをはじめとする既存組だけではない。あるアナリストによれば、先日IP電話ソフトのスカイプ・テクノロジーズを買収したイーベイも、自社のオークションサイト内での音楽ファイルの販売は短・中期計画に織り込み済みだという。イーベイからはスカイプの技術を自社のオークションサイト内で活用する方針はすでに発表されているが、さらにスカイプの技術を利用した音声によるコミュニケーションサービスが開始されれば、買い手が購入を検討している楽曲を試聴したり、アーチスト側がサイト訪問者へ売り込みたい楽曲のデモンストレーションを行うことも可能になるという。この新たな販売スタイルが市場の改革をもたらすかもしれない。

 ところで、アマゾンの強みは、他に競争相手が多い時にこそ発揮されるという指摘がある。多くのネットショッピングの利用者は、どこで購入して良いか分からなくなった時にはアマゾンのサイトで購入するという。これは有名なショッピングサイトを利用することで安心感を得られたり、ショッピングに費やす時間を節約できると考えているからだという。多くのアナリストはアマゾンの音楽ファイルのダウンロード販売業への参入は、短期的には競合他社にとってさほど大きなインパクトにはならないという見方だ。これはこの分野がすでに大小さまざまな参入者で溢れているからであり、そこにいかに大手といえども、新規参入組がいきなりシェアを確保することは困難であると予想されているからだ。

 しかし、それこそがアマゾンの狙いであるように思える。市場が飽和に近ければ近いほど、アマゾンは普遍的なショッピングサイトとしてのメリットを享受できるからだ。混乱した市場では、やはりそのネームバリューが強みを発揮する。そして大手であれば価格設定でも競争力を持ちやすい。iTMS、そしてナップスターやリアルネットワークスなどの競合他社は、市場が期待しない方向へ動き出す前に何らかの手だてを打つ必要に迫られるだろう。熾烈を極めるこの業界で、しばらくは激しい動きが続きそうだ。(田中秀憲)
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