石井克美のデジタル家電ナビ

<石井克美のデジタル家電ナビ>26.映画の進歩とホームシアター

2005/10/10 16:51

週刊BCN 2005年10月10日vol.1108掲載

 映画館に近い音場と臨場感を再現するホームシアター。だからこそ、映画音響の進歩はコンシューマ機器にも大きく影響する。米国映画テレビ技術者協会(SMPTE)がデジタルシネマ用の音響として制定したRP-223文書では最大20チャンネル(18.2チャンネル)の表現チャンネルを定義しているが、民生用のプレーヤーやAVアンプでこれをすべてフォローするのは不可能だ。

 これまでの映画は、フィルムの隙間を使って音声を収録してきたため、チャンネル数の拡大が難しかった。しかし、デジタルシネマとなると制限がない。最大20チャンネルは“基本5.1チャンネルに追加14ch”(2chは障害を持つ人のサポート用)という構成だが、映画作品によって使用されるチャンネル数も変わってくる、と考えられている。

 映画製作側にこうした動きがあるとはいえ、映画館も設備投資の負担が増えるため、いきなり複数のチャンネルを一気に追加するとは考えにくい。しかし、デジタルシネマによるサラウンドの細分化によって、劇場設備も自在にスピーカー設定を変える能力を持つことが要求されていくのは間違いない。そしてそれはやがて、ホームシアター向けのサラウンドシステムにも波及してくるのは想像に難しくない。

 RP-223文書をベースにホームシアターのチャンネル拡張を考えると、8ch(もしくは7.1ch)をサポートした上で、容量的には将来の拡張の余地を残す必要が生まれてくる。映画ソフトの記録チャンネルとホームシアターの出力設定が一致しないと、ちぐはぐな音響効果になってしまうからである。映画ソフトの記録チャンネル(音響デザイン)に合わせて、プレーヤーの出力設定を変更可能にするなどして、コンテンツが持つチャンネル数とホームシアターの再生環境が持つチャンネル数を自在に対応させる技術が求められるのだ。

 ダウンミックスもアップミックスも可能な順応性とスケーラビリティを持たせることにより、映画製作者の意図をどのような再生環境下でも再現できるホームシアターがこれからの主流。例えば、ドルビーの「ドルビープロロジックIIxバーチャルスピーカー」などは、そうしたスケーラビリティを実現するための技術。AVアンプは、ビットストリームを伝送するだけではなく、こうした処理ができるべきだろう、と同社では考えている。次回は「ドルビーが考える次世代ホームシアター」と銘打ち、新サラウンドフォーマットなどにも触れ、次世代ホームシアターの検証をしていきたい。
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