店頭流通

米音楽配信サービス市場 携帯電話ユーザーがカギに ベライゾンなど大手キャリア参入へ

2005/09/05 16:51

週刊BCN 2005年09月05日vol.1103掲載

 ようやく日本でもアップルコンピュータによる有料音楽配信が始まったが、米国での市場争いはすでに次の段階へと移行しつつある。日本より遅れている携帯電話事情が、今後の米国での有料音楽配信サービスに大きなカギとなりそうな気配だ。アップルの独走はこのまま続くのか。目の前に迫った“第2次戦争”を占ってみる。

 アップルコンピュータの「iTunes Music Store(iTMS、アイチューンズミュージックストア)」の独走が続く、有料音楽配信サービスサイト。しかし競合他社がこの魅力的な市場をそのまま放っておくわけはない。

 現在米国の音楽配信業界第2位のeミュージックは、8月17日の公式発表で、iTMSに次ぐ10万人の加入者に月間200万曲以上の音楽ファイルを配信したと発表した。同社が持つ音楽ファイルのデータは発表の時点でおよそ70万曲。もっとも、7月中旬ですでに5億曲以上を販売し、市場シェア70%以上というiTMSにはいささか水を空けられているといえる。

 ところで、音楽ファイルの有料販売に関しては、これまでのパソコンや携帯オーディオプレーヤーのユーザーではなく、携帯電話ユーザーにターゲットを絞るべきという意見もある。米調査会社のイプソス・インサイトがこの春に行ったアンケート調査によると、米国内の携帯電話ユーザーの4分の1近くが着信音をダウンロードしたという。日本や韓国と比べ携帯電話の高性能化が遅れている米国の事情を考えれば、将来ユーザーが拡大する可能性は非常に高く、魅力的な市場と見られている。

 また、パソコンユーザーが違法のダウンロードを利用するケースもいまだに多く、同社の調査では音楽ファイルのダウンロード経験のある全パソコンユーザーのうちの半分以下しか有料サイトからの正規購入を行っていないという。

 米携帯電話キャリア大手のベライゾン・ワイヤレスとスプリント・ワイヤレスは、いずれもiTMSのような音楽配信サービスを近々開始することを認めている。両者とも順調に行けば2005年中にもサービスを開始する予定といい、いずれはiTMSの脅威となっていくと見るアナリストも多い。

 各社ともファイルのダウンロード料金はiTMSに比べかなり高価になることが予想されるが、パソコンユーザーと違い、無償でのダウンロード経験が少ないことや、ダウンロードの場所や時間を問わないことなどにメリットを感じるはずという判断から、この価格設定は十分受け入れられるものと見られている。

 また全米で1億7000万人という携帯電話の所有者数の方が、iPodをはじめとする携帯オーディオプレーヤーの所有者数より圧倒的に多いことも、この分野の成功の要因となると見られている。

 eミュージックは03年に現在のオーナー企業に買収され、熱心な音楽ファンにはiTMSよりも人気だともいう。パソコンを使ったダウンロード市場という大きなパイは「取りあえず」iTMSが手にした。しかしiTMSにしてもeミュージックにしてもパソコン上での争いとなるとまだまだ違法な無料ダウンロードの数には及びもつかない。

 アップルは最近アフィリエイトプログラムを開始したし、eミュージックは更なる人気アーチストとの契約に躍起だ。携帯電話キャリア各社は言うに及ばず、モトローラやノキアといった携帯電話機メーカーも、自社製品こそが携帯音楽ツールの標準となるべく新規機種の開発を進めている。

 また、一般の音楽ファンを販売員として利用する、パスアロング・ネットワークやバーン・ラウンジのように、新しいアイデアでこの業界に照準を合わせている企業もある。

 今後はさらに多くの企業がこの市場に参入してくるだろう。音楽データを提供する大手レーベルはアップルの独占的状況を好ましくは思っておらず、多分野へも積極的なサポートを表明している。有料音楽配信サービス市場の争いは、ようやく始まったばかりである。(田中秀憲)
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