店頭流通
ブランド力の向上へ 方向転換を始めたサムスン 高品質と低価格を武器に
2004/09/27 16:51
週刊BCN 2004年09月27日vol.1057掲載
韓国のIT大手、サムスン電子の業績が好調だ。米調査会社のアイ・サプライ社が発表した、2004年第2四半期の世界の半導体製品の売り上げ順位によれば、米インテルのシェアは約13%。これに対してサムスン電子は6.5%と、その差は6.5ポイント。インテルが首位を維持しているものの、前年同期にはこの差は10ポイント近くあったことを考えれば、この1年でのサムスン電子の急成長は驚くほどである。
また同社は、3位の米テキサス・インスツルメンツ(4.7%)、同4位の日本のルネサス・テクノロジ(4.3%)などに対しても明確なリードを築いていることが判る。ちなみに日本企業の順位は、東芝が7位、NECが8位、松下電機産業が12位。そしてソニーに至っては15位にようやく顔を出したに過ぎず、サムスン電子との差は明確だ。
業績好調の理由としては、同社の得意分野であるフラッシュメモリの売り上げ増などがアナリストなどから指摘されている。これまで日本製や米国製が主流を占めてきたこれらの分野において、価格でも品質でもずば抜けたものを供給する力のあるサムスン電子にとっては、この結果はある意味当然だった。しかし、その好調さの理由はそれだけではない。かつて高品質と低価格の両立は日本企業のお家芸であった。しかし現在では、いくつかのアジアのメーカーがこれに取って代わり、そのなかでもサムスン電子は今や日米のIT大手に肩を並べる存在にまでなっている。
つまり今や「サムスン」という名前はこれまでのように低価格だけが美点のアジアメーカーとは一線を画し、積極的に取り引きをすべきブランドネームとなっており、それが莫大な売り上げに結びついたという見方だ。
ところで、サムスン電子は近々ニューヨークに大規模なショールームをオープンする。場所は、高級ブティックやホテルなどが軒を並べるタイムワーナービル。かつてのようにコストパフォーマンスのみで勝負するのはもう過去のものとし、今後は競合するIT企業が持っている高いブランドイメージをも手に入れ、業界を席巻しようという魂胆だ。
ノキアやモトローラばかりだった米国の携帯電話市場でも、多くの米国人が積極的にサムスン電子の製品を選んでいる。液晶テレビやAV(音響・映像)機器も同様だ。現在でも価格面での有利さはあるものの、それは購入動機の上位ではなく、それどころか低価格は嬉しいボーナスとしてさえみられている。ベストバイやサーキットシティなどの量販店でも、「ソニーやパナソニックに対し、デザインも良く性能も素晴らしいが、どちらかといえば割高である」との見方をされている。これに対し、サムスン電子の製品は日本製同様にデザインも性能も良く、米国製品よりも非常に品質が高い。そしてソニーなどの日本製品よりも明らかに安価ということで、消費者は最終的にサムスン製品を選んでいるという。
もしサムスン電子が高品質と低価格を併せ持つ新進企業としてのスタイルを捨て、ブランド力のある総合家電メーカーとしてやっていく施策を採択したのなら、今後はどこのIT企業がこれまでのサムスン電子の担っていた役割を担うのだろう。中国やインドは当然リストに上がってくるだろうが、サムスン電子の品質と価格との高バランスに満足している消費者は、すぐにはそれらの商品に満足することはないだろう。
従って、サムスン電子は自社が方向転換をしても当面の間はその確保した市場を脅かされる心配がなく、安心して新しい経営方針を維持することができる。まるでかつての日本メーカーの姿を見るようである。
高い生産能力と高品質と低価格の維持の実現。更にブランド力まで手に入れた暁には、サムスン電子がIT業界の第一人者となっている可能性は非常に高い。(NYCOARA, Inc.)
- 1