店頭流通
総額表示 1980円ソフトに衝撃
2003/12/01 18:45
週刊BCN 2003年12月01日vol.1017掲載
各社とも競合の出方探る
財務省は、商品の価格について、2004年4月から消費税額を含む“総額”で表示する総額表示方式を義務づける。「1980円」を総額表示に直せば「2079円」となる。仮に総額表示を1980円としたならば、本体価格は1886円となり、メーカーは1980円の4.7%に相当する94円の値下げをしなければならない。1980円ソフト最大手のソースネクストは、来年度(05年4月期)に約1000万本の出荷を見込んでいる。1980円の総額表示にするために94円値下げすれば、年間9億4000万円の減収になる計算。しかし、同社の来年度の業績見通しは売上高150億円、経常利益25億円を見込んでいることから、単純に計算して、1本あたりの利益の範囲内で94円の減益の要因になるわけだ。
ソースネクストの松田憲幸社長は、「総額表示をどうするのか、年内には結論を出す」としながらも、「1980円の表示を2079円にした場合、顧客の注目を集めるようなインパクトがあるかどうか…」と、単純な総額表示への移行に疑問を持つ。
同時に、「牛丼の吉野屋は総額表示となっているが、誰も高いとは思わない」と、価格の見せ方の工夫次第でスムーズに移行することも可能という考えも示している。
ソースネクストの判断で大きな影響を受けるメーカーもある。同社を経由して1980円の地図ソフトを販売するゼンリンデータコムは、「ソースネクストとの話し合いで決めるのが筋だが、まだ、その場は持たれていない」(同社幹部)と話す。地図ソフト分野で競合するインクリメント・ピーは、「競合会社の戦略に対抗する」(同社)と相手の出方待ちの格好。
インクリメント・ピーは、ゼンリンデータコムの価格帯に合わせる形で、11月初旬から下旬にかけて、もともと3000円台だった製品を一律1980円へと値下げしたばかり。ソースネクストの動き次第で再び価格戦略の見直しを迫られることもあり得る。
この10月から本格的に1980円市場に参入したイーフロンティアの清水勝之専務取締役は、「総額表示方式への移行をきっかけに、『1980円シリーズ』ではなく、『eプライスシリーズ』に変更し、併せて、1000円、2000円、2500円など製品ごとに値付けすることを検討中」と価格優先の戦略からの脱却をほのめかす。「ソースネクストの1980円戦略は新しいソフト市場を切り開いた。だが、総額表示のタイミングで、各社の価格のバラツキが広がる」と、横並びの価格戦略が終わるだろうと予測する。
SSIトリスターの小俣信彦社長は、「小売店に1980円で売らせようとすること自体に無理がある。たとえば総額表示2480円として、小売りの段階で約2割引とすれば、およそ1980円シリーズに対抗できる価格帯になる」と話す。
同社では、現在、低価格帯の商品の開発に着手しており、製品化の段階で「小売店が値引きできる余地」を確保することで、総額表示に変わっても“割安感”を演出する考えだ。
NECインターチャネル、TDKマーケティングは、いずれも「総額表示の価格設定は未定」として、競合会社の動向をうかがっている模様。他の関係者からは、「百貨店や100円ショップのように、本来の価格である『1980円シリーズ』という名前だけは残す」という苦肉の策も聞かれている。
価格を前面に出すソフト開発会社の本音は、「税別1980円を素直に総額2079円にすれば理想的」という声が多い。しかし、「ソフト業界の常識を打ち破って」(関係者)1980円シリーズを打ち出したソースネクストの動向次第では、総額表示を巡り、再び業界に“異変”が起きる可能性がある。財務省は、「希望小売価格」の表示は総額表示の対象外としている。その辺りの扱いを巡って、「1980円」が独り歩きするか、それとも「2079円」に変わるのかメーカー自身も判断を下しかねている。
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