店頭流通

やはり今年は厳しかった… 2002年パソコン産業を振り返る

2002/12/23 16:51

週刊BCN 2002年12月23日vol.971掲載

 2002年のパソコン産業は、きわめて厳しい1年だった。景気の低迷、先行きの不透明感を背景に、企業の情報化投資の抑制、個人消費の冷え込みが続いた。電子情報技術産業協会(JEITA)の国内パソコン出荷実績調査によると、3半期連続で2ケタ台のマイナス成長、さらに2年連続での出荷見通しの下方修正を余儀なくされている。だがその一方で、いくつかの明るい兆しも出始めている。例えば、この冬の各社のパソコン新製品では、用途提案が明確化した製品が登場している。また、IT減税措置の実施や新学習指導要綱の実施によるパソコン需要の底上げも期待できそうだ。今年のパソコン産業を振り返ってみる。(大河原克行●取材/文)

来年は用途提案型で市況回復

■02年度通期見通し下方修正、ただし明るい兆しも

 パソコン産業の低迷ぶりは相変わらず深刻だ。 JEITAが発表した今年4-9月のパソコン出荷実績は、前年同期比10%減の455万5000台。3半期連続の2ケタ台のマイナス成長という厳しい事態となっている。

 02年度通期の出荷見通しも、当初の1110万台(前年度比5%増)から、1000万台強へと下方修正を行うなど、パソコン需要低迷の長期化を示している。

 年末商戦に突入したパソコンショップ店頭の動きを見ても、一部の低価格路線を追求する量販店以外は厳しい。東京・秋葉原の電気街では、「ボーナスが出たあとも、商戦らしい雰囲気にならない」と、あきらめムードが漂っている。

 「02年は、PC-9800シリーズが20周年、Thinkpadが10周年、バイオが5周年というパソコンの中核商品の節目が重なった1年。業界として、もっと盛り上げ方もあったのでは」と恨めしそうな声も聞かれる。

 厳しい状況は、もうしばらく続くことになりそうだ。 だが、明るい兆しもないわけではない。 業界内には、回復を予感させる数多くのキーワードが転がっている。

 JEITAでは、これまで情報化投資を抑制してきた大企業、中堅企業がパソコンのリプレースに乗り出すタイミングが訪れていると分析する。約500万台ともいわれるウィンドウズ95パソコンやCRTモニタ搭載パソコンなどが、その対象になっているというのだ。

 また、e-Japan計画に基づく電子政府関連および中小企業への導入促進といった動きや、新学習指導要綱の実施にともなって教育現場でのパソコン利用が活性化、同時に家庭でも子供向けパソコンを導入したいという需要が増大するとの見方もある。

 さらに、潜在需要3000万台といわれる50歳以上のシニア層の開拓や、公共施設や屋外などの無線LAN環境の整備をはじめ、モバイル環境での利用促進といった動きも見逃せない。また、ホームサーバーが本格的に登場すれば、必然的に家族1人に1台の端末利用という使い方も出てくる。

 ブロードバンドの浸透もいよいよFTTHが本格化、IP電話も普及元年を迎えることになるだろう。企業でもIP-VPNや広域イーサネットの活用、さらにはユーティリティモデルの導入といった動きも出てくることになりそうだ。

 一方、政府が決定したIT減税措置や、法人における法定耐用年数の縮小、03年後半にも実施される個人向けパソコンのリサイクル法施行にともなう需要の増大も考えられそうだ。

 並べただけでもこれだけの明るい材料がある。これほど揃うことはきわめて珍しいかもしれない。

 だが、業界関係者の見方は依然として慎重である。 これまでの需要低迷ぶりが深刻すぎたこと、そして、どれも決定的な起爆剤にはならないとの見方が支配的であるからだ。03年前半までは前年割れという見通しは、業界関係者の多くに共通したものだ。

■パソコンの“使い方”がカギに 購買意欲を高める施策を

 だが、注目したいのは、パソコン市場で、用途をきわめて明確化した製品がいくつか出始めたことだ。とくにコンシューマ分野でこうした傾向が出始めていることは喜ばしい。用途や利用シーンが明確化すれば、製品の用途提案が行いやすくなり、ユーザーの購買意欲を高めるための施策が行いやすくなる。いわゆるコモディティ化の進展にもつながる。

 例えばNECは、今年10月に発売した新製品で、「ファミリー向け」モデルを新たに投入した。
この製品では、家族4人が家庭でパソコンを共有するという利用シーンにフォーカスした。コンセプトづくりの段階で4人という家族構成まできっちりと視野においたのは同社の製品企画において過去に例がないことだ。

 シャープは、モバイルパソコン「ムラマサ」で、モバイル利用者が最も苦労する複数のパソコンに蓄積されたデータをいかに一元管理するかという点に力を注いだ製品を投入した。

 これも、会社に1台、家庭に1台それぞれパソコンをもち、そして、その間で持ち運んで利用するパソコンとして「ムラマサ」を活用するという明確な利用シーンをベースにした開発をすすめた結果だ。

 想定したユーザーは、すでに3台以上のパソコンを使っているユーザーという極端な層。単なる薄型・軽量といった機能性を求めるだけでなく、具体的な利用シーンを想定したことが人気の要因につながっている。

 今年前半に大人気を博したソニーのバイオWも、リビングに設置してパソコンを初めて利用する人がAV感覚で使うという明確な利用シーンを想定して開発されたものだった。

 だからこそ、リビングのパソコンでは不要と判断した「オフィス」ソフトの同梱をやめ、テレビ録画機能などにコストを割いた。

 パソコンの家庭普及率が約6割に達し、買い替え/買い増し需要が中心になってくると、汎用的なものよりも、より用途を限定したパソコンが求められるようになる。

 メーカー側もそれに気がつき始めている。03年はこうした用途明確化モデルが続々と登場することになるだろう。 問題は、その用途提案や利用シーン、製品コンセプトを利用者に対してうまく訴えられるかという点だ。

 NECのファミリーモデルや、ソニーのコクーンなども、その良さが利用者に訴え切れていないだけに、このあたりが来年以降の次なる課題といえるだろう。
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