店頭流通

ヨドバシカメラ、九州進出

2002/11/11 18:45

週刊BCN 2002年11月11日vol.965掲載

 11月1日、ヨドバシカメラがJR博多駅筑紫口に「マルチメディア博多」をオープン、九州進出を果たした。筑紫口にできた新ビル内に九州最大規模、面積1万7500平方メートルの店舗を構え、パソコン、デジタルカメラをはじめとするIT商品など、計50万アイテムという圧倒的な品揃えを誇る。昨年、大阪に「マルチメディア梅田」をオープンし、関西進出をはかったヨドバシカメラが、九州進出で何を狙おうとしているのか。さらに、福岡のパソコンショップ市場はどう変わっていくのか。

JR博多駅前に巨大店舗出現
年商300億円は福岡市場を変えるか?

■規模は九州でも圧倒的 パソコン売り場が充実

 ヨドバシカメラの今年度売り上げは、昨年度の4320億円を1000億円近く上回る5300億円に達する見込みだという。その売り上げ拡大に、新店舗も大きく寄与していることは間違いない。博多店は昨年の梅田店以来の新店舗で、その次となると「東京・秋葉原に2005年に開店する店舗に注力する」(藤沢昭和社長)と、コジマ、ヤマダ電機に代表される新規出店が多い店舗に比べれば、ゆっくりと店舗拡大を行っている。

 そのペースがゆっくりなのに比例し、店舗の規模は大きい。博多店は昨年オープンしたヨドバシカメラ マルチメディア梅田に次ぐ規模となり、福岡地区では飛び抜けて大きい。

 JR博多駅筑紫口に完成した2万3000平方メートルの新ビルは、5階から11階部分までは1130台収容の駐車場スペース、4階はレストランなどのテナントスペースが設けられている。その下がヨドバシの店舗となるが、地下2階は物流センターで、地下1階は家電とパソコン周辺機器、1階はパソコン、デジタルカメラ、携帯電話、2階はAV(音響・映像)機器とゲームのフロア、3階はカメラと時計売り場となっている。

 「初年度売り上げは300億円」と藤沢社長は話す。記者からは、「規模からすれば、もっと上の売り上げを見込めるのではないか」との質問も飛んだが、「実際は300億円という目標の半分もいかないかもしれない」と控え目だ。

 現在、ヨドバシカメラの製品別売り上げ比率は、パソコンおよび関連製品が40%、カメラが8%、デジタルカメラが12%、その他が20%で、パソコンの比率の高さが目につく。今年度売り上げで換算すると、2120億円がパソコンおよび関連製品からということになる。

 博多店でも、パソコンと関連製品の売り場が充実している。「ヨドバシパソコンと改名しなければならない」(阿美祥之店長)と冗談が飛び出すほどだ。

 このところ、パソコン市況は必ずしもよくない。とはいえ、藤沢社長が「決して好調とはいえないが、悪いといっていられる状況ではない」と言い切るほど、パソコンが同社の売り上げをリードする商品に成長している。

 新しい商品の販売にも前向きで、梅田店で初めて取り扱いを始めた玩具の販売スペースを3階に置き、「今後、売り上げが好調であれば、新規の秋葉原店をはじめ、各店舗での取り扱いを増やす可能性もある」(阿美店長)という。

■激しさ増す既存店との競合 知名度と商圏がネックに

 福岡のパソコンショップとしては、地元企業であるベスト電器の天神店舗内にある「コンピュータウン福岡」、西鉄・天神駅下にある「ビックピーカン」、テナントビルジークス内にあるマニア向けの店舗「OAシステムプラザ」、「パルテック」、福岡空港に向かう道路沿いにある「アプライド」、「ヤマダ電機」、さらに郊外に「デオデオ」、「コジマ」などがある。

 これらに比べると後発ではあるものの、店舗スペース、商品量からいって、ヨドバシカメラは最大規模となる。

 ベスト電器の商品統括部・堀雅治OA部長は、実際にマルチメディア博多を目の当たりにして、「規模は確かに大きい。だから逆に、年輩の顧客には商品が選びにくいといった面も出てくるだろう」と、規模とは異なる勝負を仕掛けていく方針であると強調する。

 確かに規模の勝負では、他店を圧倒するヨドバシカメラだが、死角がないわけではない。まず、藤沢社長自ら「九州での知名度は全くない」と明言する通り、九州ではヨドバシカメラの存在を知っている人の数は少ない。

 九州地区では、東京のように家電製品を販売するカメラ量販店がなかったため、「カメラと名の付いた店ではカメラしか売っていないという認識がある」(地元家電店)との声も聞く。

 昨年の梅田店については、初の関西進出ではあったものの、梅田地区の再開発問題が関西で関心が高く、土地買収時点から度々報道されていたこともあって、知名度は高かった。

 しかし、九州では状況は大きく異なり、これまで札幌、仙台、大阪と新規開店時には店長として常に店舗を統括してきた阿美店長も、「大阪はすぐに認知されたが、九州は時間がかかるのではないか。札幌がちょうど同様に認知度が低いところからスタートし、ほぼ1年かけてヨドバシカメラとはどんな店か理解してもらった。博多も定着までには1年かかるのでは」と、慎重な姿勢を見せる。

 ちなみに、札幌店の現在の年商は約350億円。博多店の年商目標300億円という数字も、この札幌の実績をベースに立てられたものと見てよいだろう。

 もう1つの問題は、立地である。博多の場合、JR博多駅周辺は交通の便はよいものの、買い物をする商業地区としては西鉄・天神駅周辺地区が圧倒的なバリューをもっている。ヨドバシカメラ開店に関する認知度が低い要因の1つも、JR博多駅周辺に新しい商業施設が登場したことに、地元住民の関心が低いことを指摘することができる。

 同じカメラ店として、先に福岡進出を果たしたビックカメラ/ビックピーカンは、西鉄・天神駅の線路下に店舗を構えている。現在ではすっかり地元のパソコンマニアからの信頼も厚く、地元の人からは「天神駅周辺にあるので、立ち寄りやすい」との声があがる。この支持の背景に、天神地区に店舗があることがあげられる。

 ヨドバシカメラとしては地元に根付く「JR博多駅周辺はビジネス、交通の拠点で、買い物の拠点ではない」という固定観念を打ち破ることが必須となる。

 ヨドバシカメラのように、駅の側に店舗を構える店と、既存の店との競合関係をもつことについて、「店舗間の争いという側面だけでなく、街の争いという面もある」と表現した販売店店長がいるが、博多店も他の地域以上にその色合いが濃い。規模と品揃えが商圏をどう変化させるのか。これからヨドバシカメラの真価が試される。
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