店頭流通
“起死回生”狙うNEC 「トップシェア奪回」と「黒字化」賭ける
2002/10/14 18:45
週刊BCN 2002年10月14日vol.961掲載
冬商戦向けパソコン発表
“失敗は許されない”コアビジネスとして成功を
「これが失敗したら、パソコン事業は売りに出されると思え」――。NECソリューションズの片山徹執行役員常務は、今年初め社員に向けてこう号令をかけた。
個人に直接アプローチするプロダクトが少ないNECにとって、これまで同社の「ブランド」を支えていたのは、紛れもなくパソコン事業だった。だが、2001年度決算でパソコンをはじめとするパーソナル事業は300億円の赤字。しかも、コンシューマ分野では後発のソニーに、企業向け分野では富士通にトップシェアを奪われ、同社のパソコン事業はまさに瀕死の状態ともいえた。
西垣浩司社長は、「パソコン事業は、NECのブランドを支えるという意味で紛れもなくコアビジネスである。しかし、赤字のままではコアビジネスと認めるわけにはいかない」と断言。それを受けて号令をかけた片山執行役員常務の言葉は、決して冗談では片づけられないものだった。
NECカスタマックスでは、昨年10月にNEC本体からコンシューマパソコン事業を統合して以降、社内の構造改革に取り組んだ。年功序列がベースになっていた人事制度を大きく刷新。NECグループとしては異例の降格人事や2段階特進という制度を採用した。 「厳しすぎるという声もあったが、それだけの緊張感がなければビジネスは成功しない。その成果もあって、今年に入ってから社員の目つきが変わってきた」とNECカスタマックス・片岡洋一社長は話す。
NECソリューションズ・片山執行役員常務も、「管理職の報酬をカット、4月の昇給・昇格を今年10月まで見送るなどの荒療治を行った。社員の危機感をあおるとともに、『コアビジネスとして成功させるんだ』と社員に号令をかけ続けた」と話す。
ゼロからの製品開発
新コンセプトの訴求が第一
NECカスタマックスは昨年末、NECが1982年にPC-9800シリーズを投入して以来19年目にして初めて、パソコンショップ店頭での出口調査を行った。NECを含めた各社のパソコンを購入したユーザーの生の声を直接聞くのが目的だ。また、情報発信サイトサービス「121ware」でアンケートを実施。ユーザーの利用動向の掌握につとめた。 その結果、いくつかの結論が導き出された。
「例えば、家庭へのパソコン普及率は6割近いが、実際に家族でパソコンを使っているユーザーは極めて少ない。しかし、44%のユーザーが家族で一緒に使いたいと思っている」(片岡社長)
片岡社長は、こうした市場動向を踏まえて、使用環境に合わせたカテゴリー別商品体系に乗り出すことを決めた。
「従来のパソコンの後継機は作るな。ゼロから市場目的に合わせた製品企画をして欲しい」――。片岡社長はこう話し、パソコン商品計画の経験者、ソフト事業の経験者、スタッフ部門の経験者の3人を核としたチームを編成、すべてを委ねた。そして片山執行役員常務は、これに「リスクを負った市場戦略」というスパイスを振りかけた。
「NECはトップシェアにあぐらをかいていたのは否めない。ここ数年、新市場を開拓するような製品を出せていなかったのがその表れだ。新たな市場を開拓していくのはNECの役割である」(片山執行役員常務)。
同時に、他社に比べて評価が低かったデザイン面でも、若手の意見が通りやすい環境を整えた。
「残念ながら、これまでは若手の意見が通りにくい環境だった。コミュニケーション手段を含めて、若手が存分に力を発揮できる土壌へと転換させた」と片山執行役員常務は話す。
従来の製品から実現していた市場ターゲットは、「パーソナル」というカテゴリーに集約し、今回新たに「ファミリー」、「ニュースタイル」の2商品カテゴリーを用意した。この2つは、市場目的に合わせた製品づくりのベースになるとともに、NECが新たな市場を開拓していくために「リスクを負った」部分になる。
同社では、今回の新製品の成否を判断する材料として、3つのポイントを挙げている。
1つは、トップシェア奪回である。同社では、上期の段階でトップシェアを獲得したと判断しているが、「1ポイントでも2ポイントでもシェアを引き上げ、トップシェアを維持することが最低限の課題」(片山執行役員常務)と話す。
2番目は、新たなセグメンテーションとして用意した「ファミリー」における成功である。 出荷計画の構成比率では、パーソナルの6割に対して、「ファミリー」はわずか15%程度にとどまるが、「この出荷比率を達成すれば、成功のボーダーラインに到達したと考えていい」と話す。
そして3つめには、パーソナル事業の赤字脱却である。 今年度上期も残念ながらパソコンをはじめとするパーソナル事業は赤字だった。これを下期には、50億円の黒字化を目指す。西垣社長が話す「NECのコアビジネス」に復帰するための“関門”ともいえるだろう。
だが、不安材料がないわけではない。 製品販売の主力となる大型パソコンショップでは、従来型のデスクトップとノートパソコンという分類で展示を行っているのが現状。NECが掲げたコンセプトが販売店の店頭では薄れ、ユーザーにメッセージが届かない恐れがある。
片岡社長は、「まずは、販売店のNECブースでコンセプトの提案を行い、徐々に販売店の方々にもご理解を頂戴し、展示方法を変えていただきたい」と訴える。
今回の製品は、NECがパソコン事業の“起死回生”を狙った重要な製品である。PC-9800シリーズから、PC-98NXに変わった時のような派手さはない。しかし、それに匹敵するだけの意義をもった製品であることは間違いない。果たして、NECのパソコン事業に大きな改革をもたらすことはできるか。これからが本番である。
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