店頭流通

PDA市場、ついにブレイクか? 法人向け市場を突破口に

2002/03/25 16:51

 PDAは、依然として大きく普及できない状態にある。毎年、「今年こそ普及の緒に就く」と期待されながら、なかなか飛躍を果たせない。昨年10月にマイクロソフトが「ポケットPC2002」を発表し、東芝、日本ヒューレット・パッカード(日本HP)、カシオ計算機、コンパックコンピュータ、NEC、富士通の6社がそのOSを搭載したPDAを発売した。マイクロソフトとハードメーカー6社は、先行するパームとの差別化を図るために、個人と並行して企業需要を開拓しようとしている。果たして、その思惑通りにPDA市場は拡大しているのか。

MSのポケットPC2002を巡る動き

●後発のマイクロソフト、主要な販売は店頭から

 PDAについては後発となるマイクロソフトには、「パーム」やシャープの「ザウルス」といったライバルに加え、iモードをはじめとする携帯電話、サイズが小さいノートパソコンと、異なるカテゴリーの製品にもライバルが存在する。

 この点についてマイクロソフトでは、「iモードよりもリッチで、ノートパソコンよりもポータブルで終了も早い」ことが、ポケットPC2002のメリットだと説明する。PDAには、ほかのデバイスにはないメリットがあり、その優位性が理解されれば市場は大きくなるというわけだ。では、実際に昨年10月の発表から現在まで、市場に変化は訪れているのだろうか。

 「現在のところ、主要な販売チャネルは店頭となっている」

 PDA市場への取り組み状況について、マイクロソフトが3月12日に開いた記者説明会の席上、モビリティマーケティンググループ・倉石英典マネージャは、ポケットPC2002の現状をこう説明した。 パームとの差別化として企業市場を狙うマイクロソフトだが、「店頭で購入し、使うのは仕事というユーザーが多い」という。

 同社の分析によれば、パームサイズのPDAは、90%のユーザーがリテールで商品を購入。60%以上が仕事用として使用している。

 これについて、「用途は仕事であるにもかかわらず、商品をリテールで購入するユーザーが多い。その理由は、単に会社がPDAを購入してくれないからだという。これは企業がどの製品を社員に与えたら良いのか判断ができないから。逆に問題を解決しさえすれば、市場が広がる」(倉石マネージャ)と分析する。

 つまり、ハードメーカーが企業市場に適した商品を提供し、それが評価されれば、店頭以外のマーケットが拓けていくと見ているわけだ。

●企業向けの商品提供、ソリューションで収益を

 この戦略で製品を出したハードメーカーは、東芝、コンパック、カシオ、日本HP、NEC、富士通の6社。12日の記者説明会には、6社のハードメーカーも出席し、各社それぞれが戦略を発表した。

 6社ともに企業市場の開拓という戦略については同じ方向でソリューションの拡充に取り組んでいる。なぜ企業マーケットの開拓に、ハードメーカーは前向きなのか。

 NECコマーシャルプロダクト事業部モバイルソリューション販売推進グループ・成澤祥治グループマネージャーはこう説明する。

 「当社は1996年、DOS版の発売以来、ハンドヘルドサイズのモバイルギアシリーズの販売を行ってきた。スタート時点の96年度は、企業ユーザーは10%に過ぎなかったが、01年度には55%と、企業ユーザーが初めて5割を超える見込み。着実に企業ユーザーが増加している」

 「われわれメーカーにとって、10万円以下のハードウェアは事業的に厳しい。しかし、パソコン、携帯電話を含めたトータルソリューションを提供するという戦略上、PDAは当然、商品ラインアップに加えなければならない。企業市場が拡大してきたことで、システムインテグレーションを含めたトータルビジネスで収益を得ることができるようになった」

 PDA単体で収益が出るビジネスモデルの構築は難しいが、トータルな企業向けソリューションの1ツールとして、PDAは欠かせないというわけだ。

 この企業向けソリューションの中で、各社はどのような戦略を検討しているのか。 カシオによれば、「PDA市場はこの5年間微増という状態が続いていた。しかし、バーコードを読み取る専用端末の市場に対し、使い勝手、信頼性を高められるウィンドウズCEを活用することで、PDAが大きく普及するのではないか。CRMを中心に営業・販売部門のIT化に連動し、市場開拓ができる」(MNS国内営業統括部営業推進室・尾平泰一室長)と、バーコード読み取り専用機市場の置き換えを視野に入れた需要に期待している。

 この点については、コンパックも同様の見方を示している。「PDAの場合、SFAが需要の1つとして挙げられるが、今、需要が高いのは特殊業務関連」(アクセスビジネス統轄本部iPAQビジネス部・湯浅茂部長)と、バーコードのような特殊業務の需要が早く立ち上がりそうだと、カシオと意見が一致している。

 特殊業務用途は、非常に地味な需要だが、用途が明確なだけにメーカー側としても企業へ提案がしやすく、分かりやすいマーケットなのだろう。この分野は今後、着実に立ち上がっていくのではないか。

 SFAについても、日本HP、東芝などがソリューション作りを進めているが、東芝では「入力のためにキーボードを別売りで用意してはいるものの、意外にペン入力が便利。大抵のことはペン入力で済ますことができる」(モバイルコミュニケーション社PDA部・江夏英仁部長)と指摘する。

 東芝の営業部門では、パソコンではなく自社のPDA「GENIOe」(ジェニオe)を活用している。そこでは、「ペンが意外に有効」だという。こうした声をきちんと反映していくことで、企業ユーザーに分かりやすいソリューションを提案していくことにつながっていくのではないか。

 PDAの企業需要は、本格的な拡大には時間がかかるだろうが、少しずつ立ち上がっていきそうだ。マイクロソフトによれば、「02年は需要が拡大する前の準備の年になり、03年には市場が拡大していく」という。

 カギはハードメーカーをはじめとする、企業向けソリューションの拡充にかかっているといえそうだ。(三浦優子●取材/文)
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