店頭流通

SCEI BBに進出するPS2 ネットゲームの主導権狙う

2002/03/04 18:45

 ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)は、家庭用ゲーム機「プレイステーション2(PS2)」を端末としたネットワーク接続サービスを4月から開始する。4月中旬ごろから、音楽、登場人物などゲームに追加するデータ配信が、さらに5月以降にはネットワーク上で楽しむゲーム販売が開始されるという。SCEIの久夛良木健社長は相変わらず意気軒高で、「PS2は世界最大のブロードバンド(BB)プラットフォーム」とぶち上げている。

 「PS2の勝ちは見えた」と言うのは、外資系証券アナリストだ。「SCEIが黙っていても、利用者の70%をカバーする大手ISP(インターネット接続サービス事業者)が手を上げるほどなんだから」

 SCEIは、ニフティ、ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)、NTTブロードバンド・イニシアティブ(NTT-BB)など提携ISP9社を経由してサービスを提供する。サービスを利用するために必要なハードディスクとネットワーク接続機器のセット「BBユニット」すら、まずSCEIはISPに卸し、加入希望者はISPから購入、またはレンタルする形をとる。

 ゲーム業界関係者によれば、BBユニットの原価は1万8000-1万9000円といわれ、NTT-BBから加入希望者への販売価格が1万8000円であることから、SCEIとISP各社は機器販売でさやを抜くことは考えていないようだ。

 しかし、インターネット接続料金を含むサービス利用価格は1000円前後の見込みに対し、各ISPで10円単位の「加入者争奪戦」を展開するとみられる。そのうえ、ISP業界に詳しい関係者によれば、SCEIから提携ISPに「PS2本体を含め、サービス利用価格を決めていい」との許可が下りているという。

 「SCEIにしてみれば、生産分をすべてISPに売ってしまえばいいから、過剰在庫を抱えなくて済む。しかも、PS2本体の販売促進になるうえに、利用料金はISPが“勝手”に競争して安くなる。SCEIは何のリスクもなく、サービス利用料金を売り上げに上乗せできる」(前出のアナリスト)わけだ。

 SCEIの収入は、利用者が支払う料金の20%。久夛良木社長も言うように、「iモード型ビジネスモデル」と同じ構造だ。ただし、iモードでNTTドコモの取り分は3%といわれるから、ゲームメーカーの間では「ちょっと高過ぎるのではないか」との声も少なくない。

 これだけ盤石な体制で臨む今回のサービスだが、なぜかSCEI経営陣は、利用者の伸びに関して明言を避けた。

 業界関係者は一様に、「SCEIに利益が生まれるのは、2か月以上反復してサービスに接続する『常時利用者』が100万人に達してから」と見る。一方4月末にも発売されるといわれ、最初で最大の「集客力」を誇るとされるスクウェアのネットワーク専用ゲーム「ファイナル・ファンタジー11」ですら、「常時利用者は30-50万人がいい線」(ゲームメーカー関係者)という。前途が明るいばかりとはいえない。

 常時利用者は加入総数の3割程度といわれており、このサービス全体で加入者を300万以上集めなければならない計算になる。SCEI側は、そうした状況をよく認識しているようだ。

 この水準に達するのは「早くて03年末」と、前出の業界関係者は見る。「実は03年末というのは、PS2の販売収入が頂点に達する時期」だからだ。

 SCEIには、PS2の収入の落ち込みをネットワークサービスで防ごうとする意図もあるようだ。それだけではなく、「PS3は05年登場といわれている。SCEIとしては、この時にはネットワークゲームの主導権をPS規格で握っておきたい。そうすれば、PS2のように、ハード性能で競合製品と差をつけるために大規模な開発投資を強いられることなく、PS3がゲーム市場で有利な立場に立てる。PS2は05年、自らに搭載された半導体の投資2500億円を回収して寿命を終える」と、あるゲームメーカー幹部は見る。
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