店頭流通

春商戦のパソコン出荷 供給量は勘が頼り?

2002/01/28 16:51

週刊BCN 2002年01月28日vol.926掲載

 主要パソコンメーカーが出荷量を絞り込んでいる。昨年12月の年末商戦では、売れ筋パソコンが軒並み品切れとなり、販売店の業績悪化に追い打ちをかけた。年末のパソコン本体の台数シェアを見ると、ソニーが32.2%(金額シェア34.3%)であるのに対し、NECが19.0%(同18.7%)、富士通が15.7%(同16.1%)と、ソニーとの差が広がった。本来なら、NEC、富士通ともに商材を詰め込む時期であるにもかかわらずこの差がでたのは、単にソニーの商品力以上に、絶対的な供給量の違いが出たからだ。(安藤章司●取材・文)

 主要パソコンメーカーが出荷量を絞り込んでいる。昨年12月の年末商戦では、売れ筋パソコンが軒並み品切れとなり、販売店の業績悪化に追い打ちをかけた。年末のパソコン本体の台数シェアを見ると、ソニーが32.2%(金額シェア34.3%)であるのに対し、NECが19.0%(同18.7%)、富士通が15.7%(同16.1%)と、ソニーとの差が広がった。

 本来なら、NEC、富士通ともに商材を詰め込む時期であるにもかかわらずこの差がでたのは、単にソニーの商品力以上に、絶対的な供給量の違いが出たからだ。

 「ソニーは強気の出荷を続けているが、NECや富士通は数を満たす十分な量を供給していない。この春以降も同じような傾向が続く。『天下のNEC』じゃなかったのか」(ラオックス)、「ソニーが強気、富士通が様子見、NECが弱気と、一昔前とは完全に逆転している」(コンプマート)と打ち明ける。

 「メーカーは口を開くと『商材が余ると利益が吹っ飛ぶ』と繰り返す」。こう販売店は漏らすが、メーカーはメーカーなりに言い分がある。

 NECカスタマックスの片岡洋一社長は、「市場全体を見渡しても、明るい材料は見えず、利益重視で慎重にならざる得ない。メーカーの論理から言えば、売り上げを稼ぐために販売店に“押し込み”たくなるが、私は押し込まない。メーカーの押し込みに乗せられると“経営危機を招く”と販売店に忠告しているほどだ」と話す。

 富士通パーソナルズの東本満専務取締役は、「販売店の希望通り納品すると、どうしても商戦終了後に流通在庫が余る。在庫を溜めない程度で商戦を終わらせないと、次の商戦期に新製品を投入できない。とはいえ、納品数量が少ないと、当社の最低シェア目標である25%を割り込む危険がある」と、複雑な心境だ。

 年末商戦で、強気の納品を敢行したソニーマーケティング執行役員の渡邊敏夫バイスプレジデントは、「盛り上がりに大きく欠けた01年夏商戦では、主要メーカーが商戦後の在庫処分に苦しんだ。このため、各社が年末商戦に慎重になり、商材供給を絞り込むのは火を見るより明らかだった。このタイミングで、思い切って供給量を増やしたことが、台数、金額シェアに表れた」と、メーカー同士の微妙な心理戦をうまく利用したことが、バイオ躍進に結びついたと自信をみせる。

 「この春商戦では年末商戦の痛手もあり、競合他社が反発して、強気に出る可能性も否定できない。当社がどれだけ供給するかは話せない」と渡邊執行役員は言葉を濁す。

 ソニーとしてはNEC、富士通が引けば、多く商材を供給し、NEC、富士通が強気に出れば、ソニーは引くといった戦術を巧妙に繰り返すものと思われる。

 販売店側でも、「NEC、富士通が弱気で通すなら、まだまだやる気のあるシャープ、東芝あたりを持ち上げるだけ」と、メーカー間のバランスを逆手にとって圧力をかける。

 別の販売店からは、「ソニー、NEC、富士通の3社で市場の7割を占める。アップルの1割を足せば8割に達する。この寡占化状態のなかで、ノートしかもたないシャープと東芝を、総合力のあるNECと富士通にぶつけてどれだけ効果があるのか…」と疑問視する声も聞こえてくる。

 一方、こんな意見もある。OAシステムプラザの大喜一夫社長は、「NEC、富士通は、商材を絞って正解だった。もし、NECや富士通がソニーのような強気で商品を押し込んだとしたら、弱含みの年末商戦で確実に在庫の山ができていた。この春商戦でも同じ。パソコンが売れないのは、商品供給が多いとか少ないとか、そういう些末な問題ではなく、もっと本質的なところにある」と指摘する。

 商材不足に苛立つ販売店と、不良在庫を恐れるメーカー。両者いずれもパソコンの販売不振、デフレ経済、消費マインドの低下など、さまざまな要因から来る不透明感から、春商戦のパソコン販売に対して腰が引けている。

 ソニーの渡邊執行役員は、「結局、パソコンが売れるか売れないかはコンピュータでは分からず、“カン(勘)ピュータ”に頼るしかない」と、実経済を巡る心理戦で決まると話す。今の不透明感を言い得て妙だ。
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