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熱狂のジョブズCEO講演 日本にリップサービス――マックワールドエキスポ/Tokyo開催

2000/02/21 18:45

 昨年に続き、米アップルコンピュータのスティーブ・ジョブズ氏が来日、「マックワールドエキスポ/Tokyo 2000」で基調講演を行った。昨年に比べ、来場者の数は少なかったものの、iBookの新バージョンを日本で初めて発表するなど、日本のファンに向けたサービス精神にあふれた基調講演となった。(三浦優子)

日本の業績に気分上々

「1999年10月-12月の3か月間で、iMacは135万台を全世界に出荷した。これは6秒に1台の割合で新しいマシンが出荷されたことになり、とくに日本での躍進が著しい。日本市場の7.8%のシェアを獲得した」とコメントしたジョブズCEOは、客席にいた日本法人の原田永幸社長を立たせて、拍手を送る場面をつくったほどだ。

 この日本での好調な業績に気を良くしてか、スティーブ・ジョブズCEOのプレゼンテーションは、日本向けに大サービスした内容となった。

 基本的には1月にサンフランシスコで行った「マックワールドエキスポ」の講演をトレースした中身ではあったものの、随所に日本の市場動向、技術を紹介するコメントを差し挟み、新しいiBookなど新製品を世界で初めて披露した。

 講演後、壇上に再び登場して「iBookスペシャルエディション」を手に写真撮影に応じたことからも、かつてうわさされていた「ジョブズの日本嫌い」は解消されたように見える。

 昨年は、プレゼンテーションがうまくいかず、講演が終わるや否や、会場にいた側近に歩み寄り、厳しい調子で問題を追及する姿が見られた。今年も1か所のプレゼンテーションがうまくいかず、おそらく関係者は肝を冷やしたことだろうが、とくに機嫌を損ねることなくプレゼンテーションは終了した。

 もっとも、壇上に最も近い、会場の前列中央には、アップル側が米国、欧州、アジア各国から招待した200人のキーマンが並んでいたことを考えると、今回のジョブズ氏のパフォーマンスは日本だけでなく、全世界に向けられていたともいえる。

 この200人のなかには全世界のディーラーなどが含まれており、同社にとって重要な人たちばかり。それだけに日本ファンにサービスをしながらも、ジョブズCEOの視点は、完全に全世界を向いていたはずである。

Movieをアピール

 ところで、今回のプレゼンテーションは「Movie」がキーワードになっていた。同社が展開する広告「Think Differentシリーズ」は、優れたクリエイターの写真をモチーフにしているが、今回は舞台の向かって右にチャールズ・チャップリン、左側にフランシス・F・コッポラと2人の映画監督の大きな垂れ幕がかかり、アップルのMovieへの思い入れが伝わる。

 講演では、アップルが開発したデジタルビデオ編集ソフトを使い、ジョブズCEOが、犬と子供が遊ぶビデオをオンタイムで編集して見せて、「デジタル編集はDTP以上に大きなビジネスオポチュニティをもっている」と力説した。

 Movieを大々的にアピールしたことはアップルの現状と今後を考える上で示唆に富む。これはマイクロソフトのウィンドウズと比較するとよくわかる。マイクロソフトのウィンドウズは、企業で使われるOSとして不動の地位を獲得し、基幹システムで利用する際に必要な機能を付加していく方向に進んでいる。

 それに対しアップルは、Movieを前面にアピールすることで、個人ユーザーには新鮮な印象を与え、業務ユースとしてはマックの得意分野であったクリエイター用途に強いことを改めて強調、ウィンドウズとは全く異なる市場を獲得する考えであることを示した。

 かつて、アップルの業績が悪かった頃、「ウィンドウズマシンに対抗し、シェアを拡大しようとするよりも、マックの得意分野を生かした特定用途向けにアピールした方が事業再生に有効ではないか」という声があった。今回のジョブズCEOのMovieをアピールしたプレゼンテーションはまさにその通りの方針で、マックが特定用途に強いことを強調していた。

 講演の冒頭で、「iMacユーザーは初心者ユーザーの比率がウィンドウズマシンに比べて高い」とアピールしていたことも、家庭で利用する際も仕事の延長として購入されることが多いウィンドウズマシンとは、用途も購入層も異なることを強調したかったためかもしれない。

 マッキントッシュは、あくまでも自分の得意分野に特化していったことで、ジョブズCEOが講演中に多用した「Cool」との評価を得て、プロから初心者まで幅広い顧客層を獲得したのである。会場を訪れた多くの観客もこの講演に大いに満足したようで、相変わらずジョブズCEOのプレゼンテーションには熱狂的な反応が返ってきた。

 この様子を見た参加者の一人は、「まるで新興宗教の集まりに紛れ込んでしまったような気分になった」と苦笑していたが、新規ユーザーを増やしながらも、マッキントッシュは熱烈なユーザーを増やし続けているようだ。
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