BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『アンパンマンと日本人』

2025/04/18 09:00

週刊BCN 2025年04月14日vol.2055掲載

天才に愛された天才

 乳幼児を中心に不動の人気を誇るキャラクター「アンパンマン」。アニメや絵本のほか、おもちゃや食品、関連グッズを含めれば巨大な経済圏を築いており、日本のキャラクターを代表する存在だ。本書は生みの親である漫画家で絵本作家のやなせたかし氏の生涯をたどりながら、アンパンマン誕生のいきさつや、人気の秘密に迫ろうとする。

 やなせ氏は1919年生まれで、会社員を経て漫画家を志した。アンパンマンの絵本を出したのは73年で、すでに54歳のとき。その後アニメシリーズや映画の公開で国民の誰もが知る存在となった2000年代には80歳を過ぎていた。いわば遅咲きの天才である。

 アンパンマン誕生以前には、マルチクリエイターとして多くの仕事に関わっており、ラジオの脚本執筆や歌手の舞台衣装のデザイン、アニメ映画のキャラクターデザインなど多岐にわたる。やなせ氏に仕事を依頼したのは永六輔氏や手塚治虫氏など超一流のクリエイターたち。自身の代表作を残すまでに時間はかかったものの、天才たちに才能を買われた存在だったようだ。仕事依頼は、本人から直接電話で要請されることが多く、やなせ氏の才能がいかに愛されていたかがうかがえるのは本書の魅力の一つだ。(石)
 


『アンパンマンと日本人』
柳瀬博一 著
新潮社 刊 968円(税込)
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