北斗七星

北斗七星 2025年1月13・20日付 vol.2044

2025/01/17 09:00

週刊BCN 2025年01月13日vol.2044掲載



▼正月休みの間に、文化センターのホールで開かれた演奏会に足を運んだ。演目が難解なクラシックではなく素人にもわかりやすいポピュラーな楽曲だったせいもあるが、大編成のブラスバンドで演奏される音楽は大変な迫力があり、久々に聞く生のサウンドに心を動かされた。

▼特に印象的だったのが、一部の曲に導入されていた声楽家たちのコーラスだ。大勢の奏者のうちコーラスはたった4人で、言葉としての意味をもつ詞を歌うのではなく、曲の中で部分的にバックグラウンドの旋律を発声していたのだが、ほかの全ての楽器の音を上回る存在感があった。人間の声にはこんなにも複雑な響きが含まれており、豊かな表現力を有するのだということを思い知らされた。

▼シンセサイザーの登場以降、さまざまな楽器の音を電気的に再現することが可能となり、音声合成技術や生成AIによって、現在では会話の声も本物か合成かを聞き分けることは不可能になりつつある。しかし、人の心を打つ生の歌が持つ、美しい響きやわずかなゆらぎの表現にはまだ至っていないように思う。耳に残る歌声が、これから人間に求められる仕事の質を表しているように思えた。(螺)
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