BOOK REVIEW

<BOOK REVIEW>『入門講義 現代人類学の冒険』

2024/12/20 09:00

週刊BCN 2024年12月16日vol.2041掲載

多くの人が参考にすべき姿勢

 人類学は、特定の地域で営まれる生活や社会のありようを把握し、これを他文化と比較しながら考察する学問。一般に人類の文化の研究が主目的とされ、「文化人類学」とも呼ばれるが、著者はあえて「人類学」と言う。そこには、「文化」という言葉の曖昧さへの懐疑が込められているようだ。

 そもそも文化という言葉が指す対象は時代によって変わるものであり、例えば「世界にはさまざまな独立した文化が併存していて、それぞれの文化が固有の長い歴史の中で変わらずに続いている」というイメージは比較的に新しくできた捉え方。人類学者の中では新しい見方が模索されているという。加えて、研究対象とする集団によっても何をもって自文化とするかはまちまちであるため、人類学者の側から文化という言葉に特定の意味を込めたり、バイアスを持ったりすることを避けるのが肝要になるそうだ。

 では、人類学は現代、どのような意義を持った学問と言えるだろうか。著者は、異文化間の交流に着目しながら、他者との間に新しい関係を構築することだと主張する。当たり前を覆すような新しい可能性を追い求めることであり、これは多くの人が参考にすべき姿勢かもしれない。(石)
 


『入門講義 現代人類学の冒険』
里見龍樹 著
平凡社 刊 1210円(税込)
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